2019年 夏の文庫特集号  文庫本というミクロコスモス 亀山郁夫さんが文庫を買う!|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月2日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

2019年 夏の文庫特集号
文庫本というミクロコスモス
亀山郁夫さんが文庫を買う!

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第6回
●小松左京『首都消失 上・下』/●司馬遼太郎、ドナルド・キーン『日本人と日本文化 <対談>』/●日本文藝家協会編『短篇ベストコレクション 現代の小説2019』

首都消失(小松 左京)角川春樹事務所
首都消失
小松 左京
角川春樹事務所
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●小松左京『首都消失 上・下』(上巻七四三円・下巻七八一円・ハルキ文庫)

僕は、パニックものの小説や映画が大好きです。一種の補償作用があり、癒されるのです。昔、日本を訪れたロシア人作家が、突然「ツナミが見たい」と真顔で言うので、『ディープインパクト』という映画を紹介したことがありました。

3・11が起きた時、真っ先に『日本沈没』が頭をよぎりました。日本全体が沈没するという悲壮な感覚は、あの時、多くの日本人が共有したものです。同時に、この『首都消失』を思い起こし、小松さんの作品はあり得ない物語のはずではなかったのか、と考えました。

小松さんは、すごいビジョンを持った作家です。もう一度そのビジョンを共有することで、日本の進むべき道について考え直す必要があるかもしれません。今こそ、考え時なのだと思います。前々から読み直そうと思っていたので、今回取り上げることにしました。

●司馬遼太郎、ドナルド・キーン『日本人と日本文化 <対談>』(七〇〇円・中公文庫)
キーンさんとは、実際にお会いして対談もしましたし、お別れの会にも参列させていただきました。日本に対する愛は、並みの日本人をはるかに超えていました。しかし、彼は同時に、最高レベルの教養人だったのです。万葉集から世界のオペラにいたるまで、国家や民族を超え、専門と教養の間を自在に闊歩する、そんな知性の持ち主でした。我々日本人が、現在の物質的な豊かさから一歩突き抜け、人生百年時代を生き抜くために真に範とすべき世界一の教養人かもしれません。

そのキーンさんが、同じく日本の文化と歴史を知り尽くした司馬さんと対談している。どんな議論が展開されているか知りたくて、取り上げました。

●日本文藝家協会編『短篇ベストコレクション 現代の小説2019』(一一〇〇円・徳間文庫)
最近、『悪魔にもらった眼鏡』(名古屋外国語大学出版会)という短篇集を、野谷文昭さんと共編訳で刊行しました。ロシアと欧米から十二編ずつ、十二人の訳者が自由に選んだもので、野谷さんのすぐれた表現によると一種のポトラック。素晴らしいコレクションが出来たと自負しています。

最近、長編小説と短編小説の役割について考えます。現代のような、一億総多忙時代に読まれるべき本は、長編か、短編か。しかし、一概に長編小説といっても、様態はさまざまですし、それぞれの個性に応じた評価がなされます。それに対し、短編は、世界の切り取り方の巧拙という点で、一種、腕の見せ合いを思わせるところがありますね。私は、どちらかというと長編派、でも、先の短さを思うとどうしても短編に目が向きます。眠りの前のみじかい時間に、一つのミクロコスモスの誕生と消滅を経験できるなんて、こんな幸福な経験はありません。


《選書を終えて》
東京・神保町にある三省堂本店の文庫本コーナーに立つと、深い森のなかに迷いこんだような不安にかられた。文庫本という、無数のミクロコスモスから無数の声がささやきかけてくる。書店での混乱を避けるため、ある程度イメージを描いて来たつもりが、勝手が狂った。三十分で終わるはずの選書は、結果的に一時間以上に及んだ。選書は、二つの指針にしたがって行った。第一は、ジャンルを小説に絞ること(私は理論書がとても苦手なのだ)、しかもそれらは、私自身の過去の読書とつながりをもち、私自身の信条や世界観を伝えてくれる作品であること。第二は、最近の私の関心に照らしてこの夏に出会いたいと思っている本。むろん、文庫本という限定があるので、選択肢は無限というわけにはいかなかった。最後の十五分は、ほとんど本能と直観にしたがった。そして無事選書を終え、『週刊読書人』編集部に戻った私は、目の前のテーブルにずらりと並べられた二十三点を見て、快哉を叫んだ。どうか、自画自賛と受け取らないでいただきたい。そこには、みごとにひとつの小さな星雲が誕生していたのである。名づけて、ドストエフスキー星雲。むろん、発見者にして名付けの親はこの僕である。
(おわり)
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