東京百年物語1 一八六八~一九〇九 / 1590(岩波書店)東京を主人公とする数々の物語 世界文学のトポスとして|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

東京を主人公とする数々の物語
世界文学のトポスとして

東京百年物語1 一八六八~一九〇九
著 者:十重田 裕一
出版社:岩波書店
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東京を舞台とする、日本語で書かれた文学のアンソロジーを編むことが三十数年来の夢であった。このたび、ロバート・ キャンベルさん、宗像和重さん、編集協力の方々と話し合いを重ね、『東京百年物語』全三冊を岩波書店から上梓することができた。ここで対象とする百年とは、一八六八年(明治元)から一九六七年(昭和四二)で、明治・大正・昭和の三つの時代に発表された膨大な文学のなかから、各時代の特色を映し出す小説・詩・随筆など約五十篇を選んで時系列に編集した。収録作は、東京を舞台とする無数にある創作の一部にすぎないが、そこからは世界文学のトポスとしての東京を舞台に繰り広げられた物語が浮かび上がる。それと同時に、日本語の百年間の変容をたどることも可能である。

本書は書物としての工夫も凝らし、カバー表紙には色鮮やかな版画を、各パートの扉には当時の風景写真を配し、収録作の解題と解説に加え、地図と年表を付した。そうすることで、収録作が生み出された歴史的背景を知ることができ、各時代の雰囲気を体感し得るだろう。

収録作選定にあたっては、東京の各地を網羅的に取りあげることを心掛けたが、結果的に、浅草・銀座・日本橋界隈などをめぐる物語が多くなった。それは、これら東京の繁華街が明治・大正・昭和の時代を通じて書き手を魅了したからに他ならない。たとえば、東京の東北部に位置する浅草は、近年、国内外の観光客が多数訪れる街として脚光を浴びているが、ここを舞台に多くの物語が紡がれてきた。江戸時代の浅草は、浅草寺を中心とする寺町だったが、明治維新後、太政官の布告により、浅草公園として浅草寺の敷地及びその周辺の整備が始まる。一八七三年(明治六)に東京の上野・浅草・深川・飛鳥山・芝の五カ所に公園がつくられたが、そのなかの一つが浅草公園であった。一八八四年(明治一七)には一区から七区まで区割りがされ、なかでも六区は、芝居小屋、映画館などが建ち並ぶ、日本で有数の繁華街に発展していく。そうした歴史を持つ浅草を舞台に、多くの作家たちが文学をどのように創作していたのかが、収録作と解題・解説・地図・年表などを重ね合わせて読むことで明らかとなる。

「私は東京に生まれて東京に育った人間だけれども、ちっとも東京を知りません」。東京生まれの小説家、田村俊子「東京の公園」の冒頭の一文であるが、ここからは、東京が無数の相貌を持ち、その全貌を捉えるのが容易ではないことが伝わってくる。だからこそ未知の東京をめぐる物語がとめどなく紡がれ、それらが読まれ続けてきたのだろう。収録作を通じて、東京の知られざる一面を知るとともに、日本の首都を舞台とする文学の新たな魅力を発見していただけるのであれば、望外の喜びである。
この記事の中でご紹介した本
東京百年物語1 一八六八~一九〇九/岩波書店
東京百年物語1 一八六八~一九〇九
著 者:十重田 裕一
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
東京百年物語2 一九一〇~一九四〇/岩波書店
東京百年物語2 一九一〇~一九四〇
著 者:十重田 裕一
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
東京百年物語3 一九四一~一九六七/岩波書店
東京百年物語3 一九四一~一九六七
著 者:十重田 裕一
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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