コクーン / 7070(光文社)一九九五年という特別な年 昭和から平成までの戦後裏面史でもある|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

一九九五年という特別な年
昭和から平成までの戦後裏面史でもある

コクーン
著 者:葉真中 顕
出版社:光文社
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コクーン(葉真中 顕)光文社
コクーン
葉真中 顕
光文社
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「やっぱりね、俺たちの世代には九五年の衝撃があるんですよ!」

同業者のG勝浩氏は本作『コクーン』について熱弁を振るった末に言った。彼の飛ばした唾で私の顔はベトベトになった。私の某文学賞の授賞式、二次会の席での出来事である。ちなみにそのとき『コクーン』で賞を取ったわけではない。呉K浩氏は何の脈絡もなく喋りたくなったことをただ喋ったようだった。「俺たちの世代」などと言うが彼と私は五歳も違うので結構、微妙である。事程左様に論旨は迷走気味で作品について誉められてるのか、けなされているのかも、よくわからなかった。そののち私は僥倖なことにもう一つ文学賞を受賞することができたのだが、そのときも祝勝会に呉勝H氏が乱入してきてやりたい放題をしていった。ポリティカル・コレクトネスの尊重が叫ばれる昨今、彼のことをどう表現すればいいのか大変悩ましい。クレイジーな御仁であると、英語で逃げるのが精一杯だ。

ただ、壊れた時計が日に二度正しい時刻を示すがごとく、クレイジーな人間もときに妥当なことを言う。たしかに一九九五年は特別な年だった。あの年の初め阪神・淡路大震災が発生し、三月にオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きた。「未曽有」という枕詞を付けるべき大災害と大事件が、ほとんど間を空けずに起きたことはまさに衝撃だった。当時まだ一九歳だった私は、目の前の日常がいとも簡単に壊れてしまうことへの畏れと高揚を、同時に覚えていた気がする。そしてのちに振り返れば、あの年の衝撃はバブルの崩壊やITの普及、価値観の多様化といった、現在まで続く大きな時代の変化の象徴だったようにさえ思える。

『コクーン』はこの衝撃の後者、オウム事件をモチーフにとった作品だ。九五年を軸にその前後数十年のスパンで運命を狂わされる人々の因果を描いた。登場人物たちはそうと知らず互いの人生に影響を与えあってゆく。そして最後には小説でしか表現できない景色を用意したつもりである。是非これを味わって欲しい。また本作は結果的に、昭和から今年終わりを迎えた平成までの戦後裏面史のようにもなった。その意味でも読み時かもしれない。平成そのものをモチーフにした新刊の『Blue』も一緒に手に取っていただければ幸いである。

蛇足ながら、クレイジーなGKH氏の小説は悔しいことに大変面白いので、特にミステリ好きの向きには(私の作品を読んでいただいたあとで)お薦めしたい。
この記事の中でご紹介した本
コクーン/光文社
コクーン
著 者:葉真中 顕
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
「コクーン」出版社のホームページはこちら
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