慈雨 / 7071( 集英社 )交差しながら進むふたつの事件 己の過ちとどう向き合い、決断を下すのか|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

交差しながら進むふたつの事件
己の過ちとどう向き合い、決断を下すのか

慈雨
著 者:柚月 裕子
出版社: 集英社
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慈雨(柚月 裕子) 集英社
慈雨
柚月 裕子
集英社
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『慈雨』は退官した刑事――神場智則が、妻とともに四国巡礼をしながら、胸に抱えている悔恨と罪の意識と対峙し、決着をつけるまでの小説だ。

物語は、ふたつの事件が交差しながら進む。ひとつは、十六年前に起きた幼女誘拐殺害事件。もうひとつは、神場が四国へ降り立ったあとに発生した事件だ。このふたつは、発生状況が酷似していた。

神場はかつての部下であり、娘の恋人である緒方から、捜査協力を求められる。最初は拒否した神場だったが、やがて迷いながらも事件に関わっていく。

本作を書く前に、取材で四国を訪れた。旅の初日、徳島に入った日に、その年最大の台風が直撃した。東北で生まれ育った私は、はじめて台風の猛威を目にした。東北にも台風は上陸するが、勢力がだいぶ弱っていることが多い。ホテルの部屋から目にした街路樹をなぎ倒すほどの豪雨と強風は、恐れを通り越し、人間が絶対に敵わない自然の力に畏怖の念を覚えた。その体験が、のちに本書のタイトルに繋がることになる。

当初は、ホテルに着いたあと、徒歩で第一札所霊山寺から第四番札所を回る予定だった。が、台風の影響で、急遽レンタカーを借りた。

コンビニで買ったレインウェアを着込み、いざ、第一札所へ向かう。慣れない道を慎重に運転し、やっと霊山寺の近くまでたどり着いた。が、駐車場がわからない。当惑しながらあたりを見回すと、近くに派出所を見つけた。

急いで駆け込み、なかにいた若いお巡りさんに、どこに車を停めていいのか訊ねた。お巡りさんは悪天候にも関わらず、外に出て丁寧に場所を教えてくれた。

山門をくぐり参拝していると、年配の男性がやってきた。同じようなレインウェアを着て、金剛杖を手にしている。男性は私の隣にくると、納札を箱に入れて合掌しながら読経をはじめた。経をすでに暗記しているのだろう。男性は目を閉じて、一心不乱に拝む。男性は、私が納経所で御朱印をもらい、山門を出るまで本堂の前にいた。

人は誰でも、後悔を抱えて生きている。自分は違うと思っても、心の底を攫えば悔いの欠片はあるはずだ。

自分の過ちを認めるのは、辛い。己の未熟さと不全感を認識しなければならないからだ。それらから目を背けて生きていけるならば、どれほど楽だろう。しかし、人はそれができない。他人を欺くことはできても、自分に嘘はつけないからだ。
神場が己の過ちとどう向き合い、どのような決断を自分に下すのか、ぜひ見届けていただきたい。
この記事の中でご紹介した本
慈雨/ 集英社
慈雨
著 者:柚月 裕子
出版社: 集英社
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