カリ・モーラ / 3588( 新潮社)〝志〟のあるスリラー 十三年の沈黙を破って発表された新作|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

〝志〟のあるスリラー
十三年の沈黙を破って発表された新作

カリ・モーラ
著 者:トマス・ハリス
出版社: 新潮社
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トマス・ハリスといえば、だれしも『羊たちの沈黙』や『ハンニバル』に代表される″レクター・シリーズ〟を連想するだろう。だが、今回、十三年の沈黙を破って発表された新作『カリ・モーラ』には、一世を風靡したあの″人食いハンニバル〟ことハンニバル・レクター博士は登場しない。代わって主役の座を担うのは、野鳥の保護に情熱を傾ける一方、熟練のガンさばきで悪党たちに立ち向かう、タフで優しいニュー・ヒロイン、カリ・モーラである。そう、この待望の新作は、″レクター・シリーズ〟とは袂を分かつ、まったく新しいスリラー・サスペンスなのだ。

舞台は陽光うららかなマイアミ・ビーチ。その一画に建つ大豪邸の地下に眠る金塊をめぐって、一癖も二癖もある悪党どもが丁々発止の争奪戦を展開してゆく。銃弾が飛び交い爆弾があちこちで炸裂する。さながら″爆弾ロンド〟とでも言うべき軽快なタッチで物語が展開してゆくあたり、あの重厚な″レクター・シリーズ〟とはひと味違うハリスの新境地と呼んでいいかもしれない。この豪邸の管理人として働くカリ・モーラも必然的に争奪戦に巻き込まれるのだが、有力な闇組織の誘いもきっぱり断って、彼女は一人わが道をゆく。悪党たちの一方の側には、″人体液化装置〟で若い女を始末するのを好む猟奇的な臓器密輸商もいたりして、カリ・モーラにも魔の手を伸ばす。が、カリはこの男にも敢然と立ち向かって、一歩も譲らない。

なぜカリという娘はそこまで強いのか? 実は、彼女にはぜひとも実現したい一つの夢があるのだ。ハリスはカリの少女時代にまでさかのぼって、その夢のよってきたる由縁を解き明かす。このタフなヒロインは、かつて内乱に揺れた南米コロンビアで少女ゲリラ兵として活動したあげく、単身アメリカに渡ってきた難民の一人なのである。そしていま、悪党どもと渉り合うさなかにも、その胸には不法移民としていつこの新天地から追放されるかもしれない、という不安が常にうごめいている。そんなカリの苦悩と夢を描くハリスの筆致は、静かな共感に満ちていて温かい。この新作に関わるインタヴューを受けた際にもハリスは、新たにこの街に渡ってくる人々の苦難、その夢や希望についても書きたかったのだ、と明言している。

十三年ぶりの新作『カリ・モーラ』は、サイコ・スリラーで名をあげた作家にしては異色の、″志のある〟作品でもあるのだ。
この記事の中でご紹介した本
カリ・モーラ/ 新潮社
カリ・モーラ
著 者:トマス・ハリス
出版社: 新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
「カリ・モーラ」出版社のホームページはこちら
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