風烈廻り与力・青柳剣一郎 書評|小杉 健治(祥伝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

わが社のロングセラー
更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

人情、剣戟、質高いミステリ、 時代小説の正統がここにある。

風烈廻り与力・青柳剣一郎
著 者:小杉 健治
出版社:祥伝社
このエントリーをはてなブックマークに追加
タイトルにある風烈廻りは聞き慣れないと思うが、強風の日に火事と犯罪を予防するため市中を見廻る江戸町奉行所に実際にあった役職である。〈風烈廻り与力・青柳剣一郎〉シリーズは、文書管理係の例繰方と風烈廻りを兼ねる与力が主人公で、おそらく風烈廻りを取り上げたのは小杉健治が初ではないか。

史料に記述はないが物語の中では隻眼とされる柳生十兵衛、林不忘が生んだ隻眼隻手の丹下左膳など、剣豪小説には際立った身体的な特徴を持った主人公が少なくない。江戸柳生新陰流の達人で、賊十人を単身で取り押さえた時に左頬に負った刀傷が痣になり「青痣与力」の異名がある青柳剣一郎も、ジャンルの伝統を受け継いだヒーローといえる。

シリーズ第一弾『札差殺し』は、金に困っている権助と久米吉が、質屋大和屋の主人が斬殺されるところを目撃する場面から始まる。金の匂いを嗅ぎつけ調査を始めた二人は、犯人が旗本の次男・鵜飼錦吾だと確信する。剣一郎も懇意だった大和屋が殺された事件を調べ始めるが、今度は札差が殺されてしまう。

捜査を妨害するかのように、剣一郎の前には、接近戦では不利な長剣を自在に操る刺客が立ちはだかるので、何度も迫力の剣戟シーンが出てくる。また法廷サスペンスに定評のある著者だけに、読者をミスリードする手掛かりをちりばめ、無関係に思えるエピソードを収斂させながらどんでん返しを作る手並みは、純粋にミステリとしてもクオリティが高い。卓越した剣と推理能力で剣一郎の好敵手と目されるようになった北町奉行所与力との対決を軸に進む最新作『虚ろ陽』まで四十六作が書き継がれる人気シリーズになったのは、アクションが好きでも、謎解きが好きでも楽しめる懐の深さがあるからなのである。

剣一郎は、養子に行かなければ結婚も就職もできない与力・青柳家の次男だったが、目の前で兄が殺され家督を継ぐことになった。それを悔いる剣一郎には、弱者のためなら権力者と戦うことも辞さない硬骨漢で人情派の顔もあるが、決して完全無欠ではない。

職業がら当時の常識だった付け届けが多い剣一郎だが、それを当然と考える妻の多恵とは裏腹に、暮らしが楽になるので受け取るが内心はこれでよいのかと思う小市民的な感情を抱いているのである。また手探りしながら息子の剣之助と娘のるいを育て、その成長を楽しみにしている普通の父親でもあるのだ。働いて家庭を守っている世代の苦悩と喜びをリアルに描いていることも、長年にわたり多くの読者を魅了しているのは間違いあるまい。
この記事の中でご紹介した本
風烈廻り与力・青柳剣一郎/祥伝社
風烈廻り与力・青柳剣一郎
著 者:小杉 健治
出版社:祥伝社
以下のオンライン書店でご購入できます
「風烈廻り与力・青柳剣一郎」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
末國 善己 氏の関連記事
わが社のロングセラーのその他の記事
わが社のロングセラーをもっと見る >
学問・人文 > 評論・文学研究関連記事
受賞
野間四賞決定
評論・文学研究の関連記事をもっと見る >