ひなた弁当 書評|山本 甲士(小学館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

実はサバイバル冒険物語なんです。

ひなた弁当
著 者:山本 甲士
出版社:小学館
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ひなた弁当(山本 甲士)小学館
ひなた弁当
山本 甲士
小学館
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以前、バラエティ番組で女性タレントさんたちが理想の男性について話しているのを見たことがあり、ある女優さんの言葉に「ほう」と漏らした。経済力が大事だとか、イケメンがいいとかいう声が多い中、その女優さんは「無人島やジャングルに二人だけ取り残されても何とかしてくれる人」と発言したのである。

私はサバイバルものの映画が好きで、アマゾンの密林から生還した少女を描いた『奇跡の詩』や、アラスカの森林地帯でグリズリーに追われる『ザ・ワイルド』、旧ソ連の収容所から脱走した男たちがインドを目指す『ウェイバック 脱出6500km』、木星に取り残された植物学者が知恵を駆使して生き残りを図る『オデッセイ』などは特に印象に残っている。過酷な状況の中、本人も気づかなかった潜在能力が発揮されるところがいい。なので、さきほどの女優さんは、目のつけ所がいいと好感を持った次第である。

そういう事情もあって、私自身もいつか一作品ぐらいはサバイバルものの小説を書いてみたいものだと思ってはいたのだが、先行するすぐれた小説や映画を超えるものを書き上げるのは難しそうだなと尻込みし、半ばあきらめてもいた。

そんなある日、ホームレス老人を取材した報道番組を見た。彼は空き缶を拾い集めて業者に売ったり、知り合いのつてで草むしりのアルバイトをしたり、コンビニから賞味期限切れの弁当をもらう代わりにごみバケツを洗ったりして生計を立てていた。私は、不遇にヤケを起こさず黙々と生きる彼のある種の強さに感心すると同時に、サバイバル物語は無人島やジャングルが舞台でなくても成立するではないかと気づかされた。連鎖的に、セントラルパークに自生する野草を食べて暮らしているアメリカ人のおじさんもいたことも思い出した。

その結果、私の頭の中で、理不尽にリストラされ、再就職先が見つからず、家族からも疎んじられていた冴えない中年男が、公園で見つけたドングリをきっかけに、予想外の突破口を見出すストーリーの輪郭が出来上がった。
『ひなた弁当』は十年前に単行本が出たが、全然売れなかった。しかし文庫化されて結構な時間が経ってから地味に動き始め、大変ありがたいことに今もなお、書店員さんが宣伝してくれたり、読者さんたちがネット上でお勧めコメントを書き込んでくれている。私はそれを、しぶとく生き残る主人公の〔念〕のようなものが本に乗り移ったせいではないかと解釈している。
この記事の中でご紹介した本
ひなた弁当/小学館
ひなた弁当
著 者:山本 甲士
出版社:小学館
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