赤い館の秘密 書評|A.A.ミルン (東京創元社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

探偵小説好きの青年探偵とともに推理!

赤い館の秘密
著 者:A.A.ミルン
翻訳者:山田 順子
出版社:東京創元社
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本書は、およそ百年前の一九二一年に発表された、〈探偵小説〉黎明期の作品である。

一八九一年にコナン・ドイルがシャーロック・ホームズという探偵を創りだし、その活躍ぶりが次々に紹介されると、読者は物語を読む楽しみだけではなく、謎解きの推理をするという楽しみも享受できることになった。読むだけでは飽きたらず、自分も探偵小説を書いてみたいという人々が現われたのは当然だろう。本書の著者ミルンもそのひとりだ。ホームズの誕生以降、三十年のあいだに、新たな書き手たちによって、個性的な探偵が続々と誕生していたことを思えば、すでに物書きとして活躍していたミルンが、新しいジャンルに挑戦したくなったのもうなずける。

ミルンは彼好みの探偵を生みだした。犯罪捜査のプロである刑事ではなく、犯罪研究のスペシャリストでもなく、調査を職業にしている私立探偵でもなく、探偵小説好きの青年を探偵にしたのだ。

ミルンの探偵アントニー・ギリンガムは、二十一歳になったときに母親の遺産を得た。そのおかげで若くして有閑階級の一員となったギリンガムは、〝世界を見るため〟にロンドンに出て、あえてさまざまな職を転々とする。作者のミルンは、ギリンガムに人間観察をさせたかったのだろう。いろいろな職業を体験したおかげで、ギリンガムは、自分自身を含めて、立場や境遇によって左右される人間の心の動きを、それによって引き起こされる行動を観察し、考察できる機会をもてたわけだ。人間だけではなく、事物や事象に対する観察眼も鍛えられたはずだ。

そして(いわば失業状態のときに)気ままな旅に出て途中下車した村で、殺人事件に遭遇する。単純なようでいて不可解な事件で、あれこれと疑問を抱いたギリンガムは、若い友人で気のいいビル・ベヴァリーをワトスン役にたのみ、疑問の解明をめざす。このふたりがああでもないこうでもないと談義してくれるので、読者は探偵に置いてけぼりにされることなく、推理の道筋をたどっていける。殺人という重い犯罪事件を中心に据えながらも、軽やかで、ユーモアあふれる展開になっているのが、本書の特性といえる。本書が発表された当時は、こういう探偵小説もあるんだと読者は大いに楽しみ、後続の書き手には新たな指標となったことだろう。
この記事の中でご紹介した本
赤い館の秘密/東京創元社
赤い館の秘密
著 者:A.A.ミルン
翻訳者:山田 順子
出版社:東京創元社
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