子どもと共に生きる ペルー「解放の神学」者が選んだ道 書評|アレハンドロ・クシアノビッチ(現代企画室)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年11月18日 / 新聞掲載日:2016年11月18日(第3165号)

子どもと共に生きる ペルー「解放の神学」者が選んだ道 書評
働く子供は社会の主体 大人中心社会に問題提起

子どもと共に生きる ペルー「解放の神学」者が選んだ道
出版社:現代企画室
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現代世界では国会議員、高級官僚ら政治的選良と選挙民の間の乖離は著しく、投票するだけの有権者の参政権が実質的意味を失って久しい。その乖離に批判的な故ウーゴ・チャベス前ベネズエラ大統領やエボ・モラレス現ボリビア大統領らは、有権者大衆と日常的に接し討論して政策を決める「直接民主制」を採った。つまりポプリズモ(人民主義)である。これを日本では「大衆迎合主義」と訳す者が多いが、それは必ずしも的を射ていない。腐敗・堕落しがちな国会議員による間接民主制の欠陥を正す意味が大きく、かつ、大衆に迎合するよりも貧富格差対策などで大衆を指導する方に力点があるからだ。

翻って、現代社会では子供と大人の関係はどうだろうか。少年少女は保護されるべき存在、成人前の一〇代後半は半人前扱いだ。私たちはかつての自分たちに覚えがあるように、児童にも未成年者にも明確な意思・意志があるのを知っている。「反抗期」の若年層はまさに、大人中心主義の世の中に反発反逆しているのだ。本書のペルー人の著者は、「聖職者の使命は弱者・貧者・虐げられた者の救済が第一」とする「解放の神学」派のカトリック司祭だが、「ナッツ」(働く児童・未成年者)と大人社会との乖離を縮めるため半世紀に亘って尽力してきた、ある意味でポプリスタ(人民主義者)なのだ。それも極めて良質で真剣な理想主義者のポプリスタである。

発展途上国ペルーは貧困層が依然多く、ナッツの姿がどこにでもある。彼らは貧しい家計を助けるため、あるいは親から早期独立するため懸命に働く。成人後の〈パラサイトシングル〉などが到底許されない厳しい生活環境に置かれている彼らは、児童、ないしハイティーンでありながら、成人した青年層とさして変わらない自立意識を備えている。労苦によって鍛造された精神と野心的な瞳を持つ彼らは、日本の平均的新成人よりはるかに大人びて見える。一九七六年に「マントック」という今日に続くナッツ団体の結成を支援した著者は、ナッツを「未熟な未成人」でなく自立した社会的・政治的主体として認めるよう主張し訴えてきた。少年の働く権利を認めながら労働可能法定年齢を引き上げる一方で刑法処罰可能年齢を引き下げる傾向にある政府当局や、「国際児童労働根絶計画」を掲げる国際労働機関(ILO)の圧力とも闘いながら、ナッツ支援のため半生を捧げてきた。その後ナッツの団体が幾つも生まれ、「ナソップ」という連合運動体もできた。

話は飛ぶが、永山則夫元死刑囚(一九四九~九七)は処刑された九七年、刑務所で読んだ新聞でペルーのナッツの存在を知り、『無知の涙』など自著の印税を「特にペルーの貧しい子供のために使うこと」とする遺言を残した。この遺志を継ぐ永山基金から奨学金が毎年ナッツに贈られてきた。ナッツは、苦難に満ちた永山の生い立ちに衝撃を受ける。自分たちの境遇にぴったり重ね合わせることができたからだ。奨学生をはじめナッツに、緩やかな形ながら死刑廃止運動が生まれた。著者は「死刑制度廃止が、日本社会の民主的精神と人間的発展を示す、議論の余地無き指標となる」と指摘する。

子供や未成年者の立場を踏まえ、その働く生き方・考え方を読む者にこれほど訴えかける書物はめったにない。戦時中に生まれ疎開先から敗戦後の東京に戻った筆者の身近には一時期、靴磨き、屑拾い、新聞配達など少年労働者がたくさんいた。多くは戦争で両親や父親を失っていた。日本社会の貧困は高度成長過程でも再生産され、永山のような暮らしを強いられる若年層が形成され、今日も「子供の貧困」が深刻な問題になっている。本書はその解決法を提供するものではないが、働く若年層(ナッツ)とはどのような存在なのかを知り、未成年者について考える上で極めて有益な内容だ。働く子供や人々を生き生きと写し捉えるペルー在住の写真家・義井豊の魅力的な写真がちりばめられている。(五十川大輔編訳)
この記事の中でご紹介した本
子どもと共に生きる ペルー「解放の神学」者が選んだ道/現代企画室
子どもと共に生きる ペルー「解放の神学」者が選んだ道
著 者:アレハンドロ・クシアノビッチ
出版社:現代企画室
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