マンガ日本の古典 書評|石ノ森 章太郎(中央公論新社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

驚きの豪華さ、妙味にニヤリ

マンガ日本の古典
著 者:石ノ森 章太郎
出版社:中央公論新社
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 『マンガ日本の古典』(中公文庫、全32巻)が単行本・文庫累計で370万部を超えた。石ノ森章太郎さんによる第1巻『古事記』が1994年の刊行なので、すでに四半世紀のロングセラーだ。最近また注目されているのは、大人の「学び直し」ブームだけでなく、マンガで勉強する効果が、教育現場でも認められるようになったことも大きいだろう。

シリーズ刊行当時は、マンガ市場が空前の活況を迎えていた頃。原作古典と執筆陣の組み合わせは豪華でニヤリとする妙味がある。横山光輝さんの『平家物語』(全3巻)、水木しげるさんの『今昔物語』(全2巻)、小島剛夕さんの『信長公記』等々、もう二度と実現しないものも多い。驚くような実験作もあって、長谷川法世さんの『源氏物語』(全3巻)は、絵巻物で使われる「逆遠近法」ですべての背景が描かれている。逆にバロン吉元さんの『徒然草』は、現代的な濃い絵柄で全243段を一冊に凝縮し、その力業に感服する。

計22人の作家の「あとがき」の面白さも特筆される。『葉隠』の黒鉄ヒロシさんは、依頼が来た当初は「むりのむり」と思ったそうだ。しかし原典の全訳を読むうち、「ならぬなら、してみれば良い」という『葉隠』の精神が乗り移り、「当分の間は、負けない筈です」と胸を張るほどの自信作になった。古谷三敏さんの『浮世床』も、最初「とてもマンガになりそうもない原作」だと感じ、なかなか手がつけられなかったというが、吉元さんの『徒然草』と、安彦良和さんの『三河物語』の出来に刺激を受けて、描くことができたという。作者の間にも静かな「ライバル心」があったのだ。

このシリーズは、石ノ森さんによる『マンガ日本の歴史』(同、全55巻)の成功を受けて企画された。石ノ森さんは、手塚治虫さんの追悼マンガ「風のように…」(89年)で「〝M・A〟(萬画)宣言」を行ったことで知られる。それは、手塚さんが創始した戦後ストーリーマンガを「森羅万象――あらゆる事物を表現できる万画」として名付け直す試みだった。

石ノ森さんは86年に『マンガ日本経済入門』で大人向け学習マンガの新ジャンルを切り開き、89年に『マンガ日本の歴史』をスタートさせた。石ノ森さんにとってこれらが「萬画」の実践だったのだろう。現在「萬画」は石ノ森作品のみを指す言葉になっているが、「マンガ日本の古典」のような、教養・学習マンガなどにも広げられる概念として、再定義されてもいいのかもしれない。マンガに単なる「娯楽」以上の付加価値を求める流れは、今後もおそらく止まることはないからだ。
この記事の中でご紹介した本
マンガ日本の古典/中央公論新社
マンガ日本の古典
著 者:石ノ森 章太郎
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
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