日蝕・一月物語 書評|平野 啓一郎(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

平野啓一郎は初めから、違うところを見ていた

日蝕・一月物語
著 者:平野 啓一郎
出版社:新潮社
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日蝕・一月物語(平野 啓一郎)新潮社
日蝕・一月物語
平野 啓一郎
新潮社
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文壇のみならず、当時の社会にも少なからぬ衝撃をもたらした、平野啓一郎のデビュー作。それが『日蝕』だった。

作品の舞台にとられているのは、15世紀末の南仏。若い学僧が、旅の途上で小村を訪れる。そこで彼が目にするのは、錬金術の現場や魔女裁判など、現代ではちょっとあり得ない前近代的な出来事の数々。

題材とともに重厚で幻想的な雰囲気をかたちづくるのに寄与したのは、漢語を多用した装飾的な文体だ。ルビなくしては読めないような難解な語が続出し、「衒学的」「ハッタリ」と捉えられることもあったが、平野が狙ったのは知識のひけらかしなどではもちろんない。

小説の現状と文学史の流れを眺め渡したうえで、これまでなかった新しい何かを付け加えること。それが新規に参入する者の務めと任じた平野は、すでにあるものをなぞるのではなく、フィクションとナレーションの両面において、新しい文学をイチから築き上げようとしたのだ。

同作が第120回芥川賞に選ばれたとき、平野は京都大学に通う学生だった。若き天才の登場に世間は湧き、単行本はベストセラーになった。話題の作家の次回作が注目されるなか、発表されたのが『一月物語』だった。

こちらの舞台は明治30年の日本。青年詩人の真拆は神経衰弱を癒そうと旅に出て、奈良の山中へ足を踏み入れる。その地で彼は夢と現の狭間ヘ迷い込み、運命の女性と邂逅する。設定こそ前作とがらり異なるものの、幻想と耽美の世界を徹底して構築せんとする強い意思の存在は共通だ。

この2作が現在は、新潮文庫に並んで収載されている。通読するとデビュー当初から、平野啓一郎は文学者という枠に収まらぬ創作活動をしていたのだと改めて知れる。

この時代にどんな表現が可能かをみずからに問い、自身の書くものが文学の歴史においてどんな位置付けと役割を果たすか吟味し、小説というジャンルの拡張をも目論む。そうした創作態度は、他ジャンルのつくり手とも共鳴しながら、次代の表現を拓く活動に勤しんでいるように見える。それで平野には、広い意味での「現代アート」の担い手のひとりという雰囲気が漂う。

デビューから20年を経過した今も、作品ごとに新しい取り組み、実験、挑戦を繰り返すスタンスはまったく変わらない。平野啓一郎の表現、その出発点を確認するのに不可欠な一冊である。
この記事の中でご紹介した本
日蝕・一月物語/新潮社
日蝕・一月物語
著 者:平野 啓一郎
出版社:新潮社
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「日蝕・一月物語」出版社のホームページはこちら
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