螢草 書評|葉室 麟(双葉社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

毅然と生きる人間を表現する

螢草
著 者:葉室 麟
出版社:双葉社
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螢草(葉室 麟)双葉社
螢草
葉室 麟
双葉社
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虎は死して皮を残し、作家は死して作品を残す。二〇一七年十二月に逝去した葉室麟の残した歴史・時代小説の数々は、後世に語り継ぐべき名作揃いだ。ただ、虎の皮に柄があるように、作品にもカラーが存在する。たとえば双葉社で刊行された長篇四冊は、エンターテインメント色が強い。文庫がロングセラーとなっている『螢草』を例に挙げて説明してみよう。

物語の主人公は、菜々という十六歳の少女だ。彼女が三歳の時に鏑木藩の藩士だった父親が切腹。以後、母親と共に祖父の家で暮らしていたが、ふたりが相次いで死ぬと、藩の上士・風早市之進の家で、女中として働く。将来を嘱望される市之進と、妻の佐和。四歳の正助と、三歳のとよ。一家に受け入れられた菜々だが、幸せな日々は長く続かない。

風早家に悲劇が襲いかかり、佐和が死亡。さらに市之進が失脚し、獄を経て、江戸に送られた。屋敷も取り上げられる。行き場を失った正助ととよを守るため、菜々は苦難の道を自ら選択する。
こうした粗筋を書くと、シリアスなストーリーに見える。だが読み味は、思いの他に軽やかだ。理由のひとつは、菜々の明朗なキャラクターである。父親の不審な切腹という過去を背負う彼女は、素直だが芯が強い。風早家の良き影響を受け、健気な気性を静かに開花させていく。だから大切な人々を守りたいという菜々の姿を、応援したくなるのだ。

それは読者だけではない。浪人時代に菜々と縁のあった、藩の剣術指南役の壇浦五兵衛を始め、周囲の人々が彼女の協力者になっていく。藩の不正に絡んで、悪党が菜々たちの暮らすボロ家に乗り込んだときなど、彼女を助けるため次々と協力者が現れる。主人公のピンチに味方が駆けつける展開は、エンターテインメントの王道だ。これをきっちりやってくれるから、大いにストーリーが盛り上がるのである。

また、クライマックスの御前試合で行われる、菜々と悪党との対決には、ドキドキさせられた。なぜか菜々が、味方になる人の名前を間違えるという、繰り返しギャグも笑える。美しき心映えを抱いて、毅然と生きる人間を表現するという、葉室作品に共通するテーマは、この物語でも健在である。それをエンターテインメント色豊かに描いたからこそ、多くの読者を獲得しているのではないか。本書がロングセラーになっている理由は、ここにある。
この記事の中でご紹介した本
螢草/双葉社
螢草
著 者:葉室 麟
出版社:双葉社
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