くらまし屋稼業 書評|今村 翔吾(角川春樹事務所)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月3日 / 新聞掲載日:2019年8月2日(第3300号)

一作ごと趣向を凝らす、天性の現代版戯作者

くらまし屋稼業
著 者:今村 翔吾
出版社:角川春樹事務所
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まだ新人と言っていいキャリアだが、一作ごとに趣向を凝らし、物語を紡いでいく力量は、天性の現代版戯作者としての才能を有していることの証である。「くらまし屋稼業シリーズ」は、そんな作者の小説作法が遺憾なく発揮されたシリーズである。

現在、第一弾『くらまし屋稼業』を始め、『春はまだか』、『夏の戻り船』、『秋暮の五人』の四冊が刊行されており、巻を追うごとにファンが急増している。人気の秘密はシリーズものを面白くする要素がぎっしりと詰まっているからである。第一は、くらまし屋という職業にある。閉塞的な時代状況の中で追い詰められ、今の自分の姿を消し、新しい土地で生きなおしたいと思っている社会的弱者の依頼を受け、晦ますことが仕事である。優れたアイデアと言えよう。第二は、くらまし屋を稼業としているチームの人物造形の巧みさである。三人編成のチームなのだが、考え抜かれた役割分担となっている。

チーフである堤平九郎は普段は飴細工師で武術が得意技、居酒屋の波積屋で給仕として働く七瀬は頭脳明晰、智謀に長けている。いわばチームの参謀役と言えよう。役者のような美男子の赤也は変装術と演技力、それも自分が化けるのはもとより、他人を化けさせるのも巧いという得意技でチームに貢献している。この三人が波積屋をベースキャンプとしてどういった手立てで晦ますかを考えるのが物語の核となっている。

特に注目しておきたいのは平九郎の武術である。作者が得意とする破天荒なアイデアがここに登場してくる。平九郎の得意技は、すべてを模倣するところにあるという設定である。元は武士である平九郎はタイ捨流剣術を学んだが、十五の時にとある男を師として修業する。人の太刀筋を真似て、己も真似るというものである。師はこれを昇華させ、戦いの最中でも人の技を盗み、即座に体現することを教えた。これが井蛙流の神髄であるという。恐ろしい技である。

第三は、読者の感情移入をしやすくする工夫がされていることだ。涙あり、笑いあり、ミステリー仕立ての展開もあり、手に汗を握る剣劇場面もある。これらが絶妙なハーモニーとなって読者を虜にするわけだ。各巻とも疾風怒濤のエンターテインメント作品と言える出来となっている。 

今後の時代小説の新たな道を切り開いていく作家の記念碑的作品と言っていい。
この記事の中でご紹介した本
くらまし屋稼業/角川春樹事務所
くらまし屋稼業
著 者:今村 翔吾
出版社:角川春樹事務所
以下のオンライン書店でご購入できます
「くらまし屋稼業」出版社のホームページはこちら
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