梅原 猛 寄稿 [三島由紀夫氏への公開状] 死せる“神の思想”の復活 ――「対話・日本人論」にひそむ誤謬 『週刊読書人』1966(昭和41)年12月5日号 1面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月4日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第653号)

梅原 猛 寄稿 [三島由紀夫氏への公開状]
死せる“神の思想”の復活 ――「対話・日本人論」にひそむ誤謬
『週刊読書人』1966(昭和41)年12月5日号 1面掲載

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1966(昭和41)年
12月5日号1面より
林房雄氏と三島由紀夫氏の『対話・日本人論』が、このほど番町書房から刊行された。芸術・文学・天皇・思想など多角的な視点から、日本と日本人を考察した興味ある書だが、ナショナリズム台頭のさけばれる今日、さまざまな問題を投げるだろう。そこで、哲学者の梅原猛氏に三島由紀夫氏への公開状を執筆してもらった。(編集部)
第1回
仮面でなくホンネの思想が

私があなたに手紙を書こうと思ったのは、かならずしも週刊読書人の編集部のすすめによるのではありません。あなたとはまえまえから一度ゆっくり話してみたいと思っていました。なぜならあなたと私は多くのところで一致しながら、基本的なところで違っているように思われるからです。だいいちあなたと私は同じ大正十四年の生れ、最後の戦中派という世代に属し、趣味、思想にも多くの共通点があるように思われるのです。

あなたと林房雄さんとの対談、『対話・日本人論』の中では新しく出現した助教授クラスの新国語派について語られていますが、私が新国語派に属するかどうかはとにかく、最近の私の思想的な情熱の多くは、日本文化とは、日本精神とは何であり、それが今後の世界の思想に対してどういう意味を持つか、ということを究明するのに注がれています。この対談を読みますと、あなたも私と同じような問題を考えていられるようです。おたがいにナショナリストであるばかりか、ニーチェやハイデッガーに対する肯定的評価、定家や世阿弥への関心の持ち方、それに唯識仏教への興味まで似ているようです。ただあなたがすでに「ノーベル賞級の仕事」をした文学者であるに対し、私は昨年ぐらいからやっと自分の思想をつくりはじめた思想家であるという違いを除けば、あなたと私はいささか似すぎているように思うのですがしかし基本的なところがまったく違っているようにも思うのです。この似ているところと違っているところをはっきりさせ、二人の思想を「対話」によって深めることは、あなたと私ばかりか、同じような問題を考えている多くの日本人にも何らかのためになることと思いますので、週刊読書人の編集部のすすめに従って筆を執ってみたのです。

この対話の中には、最近のあなたの思想がまったくナマのままで語られています。そしてその思想はおそらくあなたが長い間、自己の文学の表現手段として愛用して来た仮面の思想ではないようです。ここには仮面ではなくしてホンネがあります。仮面をかぶって幽玄な能楽風の現代劇を演ずれば世界一の芸を見せてくれる。芸術家三島由紀夫が、仮面をぬぎ捨てて絶叫しはじめた感があるのです。私は多くの批評家のようにそれをまたあなたの多少目新しい演技にすぎないと思いたくありません。少なくともあなたはここでははなはだまじめなのです。しかもあなたみずから語られるように、ここであなたの思想は首尾一貫しています。従ってこうした首尾一貫した思想を批評するには、こちら側にも首尾一貫した思想が必要なのです。
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