梅原 猛 寄稿 [三島由紀夫氏への公開状] 死せる“神の思想”の復活 ――「対話・日本人論」にひそむ誤謬 『週刊読書人』1966(昭和41)年12月5日号 1面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月4日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第653号)

梅原 猛 寄稿 [三島由紀夫氏への公開状]
死せる“神の思想”の復活 ――「対話・日本人論」にひそむ誤謬
『週刊読書人』1966(昭和41)年12月5日号 1面掲載

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第8回
深い人間憎悪と自己憎悪が

あなたの中には、深い人間憎悪、自己憎悪がかくれているように思います。結局、人間は権力意志と性欲だとあなたはいいます。たしかにあなたの人間を見る眼はつめたい。人間の善意というものを、たとえば「十日の菊」では、おしつけがましい大衆の不徳としか見えていないようです。こうして冷く人間を見るあなたの心が、どこかで純粋なものを求めるのです。あなたが仮面の告白と称するような、ウソの告白をし、ウソの小説を書けば書くほどあなたは人間と自己の世界にはげしい嫌悪を感じ、純粋な世界を求めるのです。そして純粋な世界を、あなたの十一才のときに見た世界に求めたのも、あなたの心理としてはよく分るのですが、十一才のときより成長しない知性を人におしつけようとして、人が承知しないのを何かひどく自分が誤解されているように怒るのは、何としても、大人げないことです。

私はニイチェ主義者であった何年かがあります。権力意志にしか人間の本質を見ない人間不信の時代を長い間送りました。しかし私はやがてニーチェという神をもすてました。今の私は、人間の中における仏心を信じるものです。地獄の世界や、餓鬼の世界、修羅の世界が、今の私の心に実在すると同様に、仏の世界も実在するのです。この実在する仏の世界を信じることから、私の純粋なものの探求は始まるのです。永遠不滅な仏性を私の中にあると信じる私が、あなたのようにヒステリックに死せる神を復興しようとしないのはもちろんです。

私もあなたと同じく、トインビーの歴史の予言を信じるものですがトインビー解釈はあなたと反対です。あなたは日々に西洋化する文明にたいして、純粋日本的原理に従ったヒステリックな怒りを爆発さすことが、非西欧文明の西欧文明にたいする挑戦として必要であると考えますが、私はそういう方法では、新しい文化創造はとてもできないと思うのです。私はトインビーのいうように十六世紀から十九世紀までの歴史を、西欧文明が非西欧文明に圧力をかけて、西欧文明により世界を統一した時代であり、今後の時代を、非西欧文明の西洋文明にたいする反撃の時代と考えるのですが、この反撃にはねばり強い意志が必要なのです。そのためには、わらわれが二千年の間うけ入れた東洋文明の伝統をフルに生かす必要があります。
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