対談=信田さよ子×大嶋栄子 性被害は終わらない 信田さよ子著『〈性〉なる家族』(春秋社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2019年8月9日 / 新聞掲載日:2019年8月9日(第3301号)

対談=信田さよ子×大嶋栄子
性被害は終わらない
信田さよ子著『〈性〉なる家族』(春秋社)刊行を機に

このエントリーをはてなブックマークに追加
〈性〉なる家族(信田 さよ子)春秋社
〈性〉なる家族
信田 さよ子
春秋社
  • オンライン書店で買う
長年、家族について考え、書いてきた臨床心理士の信田(のぶた)さよ子氏が、はじめてその「性」の問題に取り組んだ『〈性〉なる家族』が刊行された。刊行を機に、精神保健福祉士で、被害体験を持つ女性の福祉的支援を行うNPOを運営する大嶋栄子氏との対談をお願いした。「家族の問題の中で、もっとも忌避されてきたのが実は性の問題だ」と信田氏は書く。対談では、性虐待(近親姦)、DVを中心に、当事者と支援者の置かれた実情、性暴力を生み出す社会構造、性暴力にいかに対処すべきかなど、言葉になりにくい部分が語られた。 (編集部)
第1回
性加害者と性被害者の圧倒的な非対称性

大嶋 栄子氏
大嶋 
 性暴力、殊に近親姦は仕事柄、何度も被害者に話を聞いていますが、どうしてこんなことが起こるのか理解できないことばかりです。信田さんの本は、そのような長い間秘されてきた家族の性を、なんとか言葉にして伝えようという試みです。

性暴力はこれまで、男性の本能的な性衝動に帰するという通説で語られがちでした。信田さんは「「本能」とされる性行動は、実は力関係(ポリティカル)によって構築されてきた」ものであること。そして家族の中で、最もパワーの弱いところ、得てして物いわぬ女性や小さく非力な少女のところに、力が行使されてきたと。家族は、大黒柱である父(時に母)ではなく、その末端に支えているものがいる。これはまさに私が日常的に会ってきた人たちのことです。そして国家は、その小さな少女が支える「家庭」によって支えられているのだと。

本を読み、「そのとき」何が起こっていたのか、私の中で燻っている疑問が、少し解かれた思いがしました。ただやはり、どうして他者をコントロールできるなどと信じ込めるのか、加害者が錯覚し耽溺してしまう力というものが、いかに形作られていくのか、そこが私には解せないんです。

信田さんは刑務所や保護観察所の性犯罪者処遇プログラムの作成に関わっているでしょう?
信田 
 性犯罪者処遇プログラムは、「被害者も望んでいた」などの誤った認知を修正し、再発防止を図るために集団で教育するものなので、なぜ性犯罪を行ったのか、というような個人史的な掘り下げはしないんです。
大嶋 
 それが犯罪だという自覚を持たせるところからですね。
信田 
 殴ったり性行為をしたり、という直接の行為でなければ、DVではないし近親姦ではないと理解している人が多いですからね。本書では、妻にセックスを断られた夫が怒って妻の洋服を切り刻んだり、娘に毎夜アダルトビデオを見せてその反応を喜ぶ父親の事例を挙げましたが、それらが明らかにDVあるいは近親姦であり、犯罪だということを、加害者にも被害者にも伝える必要があります。ただ、性犯罪者処遇プログラムに、近親姦の加害者はほぼ対象とされていません。
大嶋 
 近親姦は罪に問われにくいですからね。
信田 
 犯罪の中でも、性犯罪はグレードが一番下で、中でも最下層が近親姦でしょう。殺人は、実はカーストの一番上だったりしますよね。
大嶋 
 刑務所内カーストね。近親姦は犯罪者からしても最低の行いで、人として終わっているという認識。でも日本では、犯罪としての扱いが軽いでしょう。

被害者の中では、その出来事はいつまでも終わらない。アイデンティティがバラバラになって、自分を保てない状態が長く続き、生活することも生きていくのにも困難を生じさせる記憶を抱え続けていく。一方で加害者は罪に問われないし、罪の意識もないというのは、理不尽過ぎます。
信田 
 圧倒的な非対称性。先日裁判が行われたジャーナリストの伊藤詩織さんの事件でも、元TBS記者の山口敬之は、介抱したとか、なだめるような気持ちで(性行為に)応じたとか、堂々と主張している。
大嶋 
 驚きますね、あの置き換えには。
信田 
 無罪を主張するどころか、相手に対していいことをしたかの文脈で語っている。近親姦を行う父親たちも、その「スキンシップ」が「愛情」であると語るんです。

加害者には罪の意識などなく、かたや被害者の内にたたえられた傷は、どれだけ経っても癒えることがない。古い記憶が何十年も経って、フラッシュバックによりまざまざと蘇るということが起こります。しかも長年苦しんだ末、罪を問うためには自身を曝して告発しなければいけない。

性加害者と被害者の非対称性は、#MeToo運動が起こるまでは、社会一般にほとんど知られていなかったと思います。
2 3 4 5 6
この記事の中でご紹介した本
〈性〉なる家族/春秋社
〈性〉なる家族
著 者:信田 さよ子
出版社:春秋社
以下のオンライン書店でご購入できます
「〈性〉なる家族」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
信田 さよ子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
社会・政治 > 社会全般関連記事
社会全般の関連記事をもっと見る >