対談=細馬宏通×菊地浩平 ELANで広がる研究の可能性 『ELAN入門 言語学・行動学からメディア研究まで』(ひつじ書房)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月9日 / 新聞掲載日:2019年8月9日(第3301号)

対談=細馬宏通×菊地浩平
ELANで広がる研究の可能性
『ELAN入門 言語学・行動学からメディア研究まで』(ひつじ書房)刊行を機に

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第3回
行動分析の基本的インフラに

サイレント期アメリカ映画、グリフィス『光は来たれり』を分析したELANの画面(本書p.238より)

細馬 
 『ELAN入門』をなぜ書いたかと言うと、とにかく「みんな使おう」という話です。本当に手取り足取り、最初から解説を書きました。本の最初の数十頁を読めば、とにかく使えるようになりますから、それで充分報われる。そこから先にもっと細かい分析をしたい人のためには、後半でかなり専門的な手続きを紹介しました。とにかく本の通りクリックして入力していけば、どんどん使いこなせるようになる。

例えば応用行動分析をする人は超便利だからぜひ買っていただきたい(笑)。意外とELANのこと知られてないんですよね。
菊地 
 しかも初学者であっても本に書かれていることをなぞってもらうだけで、映像を用いた研究が実際にできそうな気がする! というところまで行き着くように書いていますので親切ですよ(笑)。
細馬 
 さっき可視化の話が出ましたが、ELANには目で見える形にするためのおもしろい機能があって、それも紹介してます。たとえば決まった記号を色づけする機能。私たちは笑うときに、声を出すときと出さないで微笑むときがある。そこで、声を出して笑っているところは赤、微笑みはピンク、笑ってないところは白という風に記号を色づけする。すると笑いの時間構造の特徴が色でぱっと発見できるんです。この本はカラー刷りなので、そのあたりも味わっていただきたい。統計機能も付いているので、誰の微笑がどれくらいの頻度で出て、平均長がどれくらいあるかといったことも、分析できます。
菊地 
 ELANは機能がほぼオールインワンと言っていいほど詰め込まれていて、これができるならこれもできるんじゃないかと思って調べると、実際にできてしまうということが多々あります。我々も全容は把握できていないかもしれません。
細馬 
 ぼくも以前は使わない機能がけっこうあったんだけど、この本を書くために自分でひとつひとつ使ってみたら、なんだ、これすごい役に立つじゃないか! っていうのがたくさん出てきて。だから、必須の機能についてはもちろん詳しく書きましたけれど、ユーザーにあまり知られていない機能についてもわかりやすく頁を割いています。何しろ可能性が広いソフトなのでELANを使ってみて、ユーザーが使い方を発見するといいと思います。

たとえば音楽の演奏分析をする人は、手元のスコアを見ながら演奏者の様子も見なくちゃいけないし、耳では音楽を聞かなければいけない。そこで、録音した演奏に合わせてスコアの演奏部分をカメラで撮影して、スコアの映像と演奏の映像と音声の波形とを組み合わせてELANで分析しちゃう。ELANは二つ以上の映像も同時に再生できるので、これが可能なんです。指揮棒を振り下ろす前の準備はどこから始まっていて、振り下ろしはどのような軌跡で、その動きに演奏者はどのように反応するのか、といったことまで手軽に分析できる。
菊地 
 私の担当分で特に強調しておくとすれば、コーディングを「設計する」ということでしょうか。他の方のお話とも共通することですが、コミュニケーション研究は実際に手を動かすことと対象・現象を理解するプロセスとが相補的な関係にありますので、手を動かしてきた結果と今見ているものを同じ画面上で見られることはとても重要なことなんです。それができるということだけでも、見ていて気づきがあると思います。
細馬 
 視線分析、音声分析、言語分析に関しては菊地さんをはじめエキスパートの方に分担執筆してもらったので、最前線で使っているテクニックが盛り込まれていますね。これらの分野はこれからELANでさらに進むと思うんです。すでに国際会話分析学会や国際エスノメソドロジー学会、ジェスチャー学会といった国際会議ではELAN使用率が高い。会話や人間の動作を相手にしている人は基本的なプラットフォームとして使っているので、その種の研究をする人は一通り使えた方がいい。行為分析の基本的なインフラになっていますね。
菊地 
 この本が出てすぐに買ってくれた人がいたのですが、「こういった本が欲しかった」とすごく喜んでくれました。音声学を分析するソフトとしてPraatを使っている人が多いんですけれど、それと合わせてELANを使いたかったそうです。
細馬 
 人間の発する声ってかなり身体的なものですよね。微動だにせず声を出しているわけではなく、実は体もバタバタ動いている。でも今までは音声分析をする人は音声分析だけで、体が声につれてどう動いているかを考える人は少ない。でもどうやって声と身体動作の微細な構造を記述したらいいか。Praatは声の膨らみや母音の萎みなど相当細かく見ることができますよね。これをELANと連携すると、声を出した時点で体がどのように動いたのかが非常に詳細にわかる。

逆に、ぼくのように動作分析をしている人間は、これまで音韻の細かいことを考えてこなかった。でもPraatと結びつけると、体の動きを研究する側から音声研究へと考えを飛ばせる。今までは問わずにすんでいた声と体の関係が具体的な形でソフト上で結びつく。「声の身体性」とでも呼ぶべき、新しい研究領域が広がるわけです。これは研究者としてとてもおもしろい体験ですね。
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この記事の中でご紹介した本
ELAN入門 言語学・行動学からメディア研究まで/ひつじ書房
ELAN入門 言語学・行動学からメディア研究まで
編集者:細馬 宏通、菊地 浩平
出版社:ひつじ書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「ELAN入門 言語学・行動学からメディア研究まで」出版社のホームページはこちら
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