フランス史 書評|ギヨーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月10日 / 新聞掲載日:2019年8月9日(第3301号)

フランス史 書評
平易で明快な通史
各国語に訳されている「定番書」

フランス史
著 者:ギヨーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー
翻訳者:楠瀬 正浩
監修者:鹿島 茂
出版社:講談社
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 一九七七年の原書も、二〇一九年に刊行された邦訳も、著者・訳者が感じた必要性から生まれた。

原書の執筆経緯は「はじめに」で述べられているとおり、著者が「初めての入門書として若者たちが気軽に手にすることができるような、あるいはフランス文化に関心を抱いている外国人たちに気楽に薦めることができるような、簡単なフランス史の本は見当たらない」という「簡単な事実」に気づいたためという。ギヨーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニーは王政復古期を専門とする歴史学者であり、邦訳書には『キリスト教史8 ロマン主義時代のキリスト教』(上智大学中世思想研究所編訳・監修、平凡社ライブラリー、一九九七年)がある。そうした碩学が、パリのカトリック学院やアメリカン・カレッジ(現在のアメリカン大学、AUP)等の教育機関で教鞭をとり、外国人学生の平均的な知識レベルを認識したことで、平易なフランス通史の必要性を切実に感じたものだろう。先史時代から二〇世紀に至るフランスの歴史を明快に著した本書はこうして誕生し、一般読者と学界から好評をもって迎えられた。一九八七年、一九九七年には増補新版が刊行され、これまで英語、ドイツ語、スペイン語にも訳されている「定番書」である。

以上のような経緯で一九七七年に誕生した原書を、二〇一九年に邦訳刊行する意義とはなにか。巻末の「監訳者あとがき」にあるとおり、四〇年以上前に著者のベルティエ・ド・ソヴィニーが感じた状況が、今日の日本で変わらずに存在するためである。高校の「世界史」では地域・時代が切れ切れにあらわれ、特定の国の歴史を通史として捉えるのは難しい。フランス人であれば小学生のころから覚えることになる人名や事件を網羅的に学ぶ機会のないまま大学の専門課程に進むと、今度は基本的な知識を既に前提としている研究書に取り組むことになる。どこかで欠落部分を補う必要があるわけだ。それにもかかわらず「一人の著者、それも真っ当な歴史家による一冊読み切りのフランス通史」は日本にはこれまで存在しなかった、このことが邦訳を決意した理由であると監訳者は書いている。確かに「フランス史」と題された学術的な書籍はあっても、精緻さを求めるがゆえに数冊に及ぶ大部であったり、見地をやや異にする複数の著者が同居した論文集の外観を呈していたりといった場合が少なくない。今回、定評のある「平易で明快な通史」が手に取りやすい一冊本であらわれたことは大いに喜びたい。

翻訳は一九九七年の増補新版を底本としており、先史時代からミッテラン政権(一九八一-九五年)までを全二九章、約六〇〇ページに収めている。特筆すべきは原著者が選択した手法である。「厳密に年代順に従い、政治的事件と歴史的人物に多くのページを割き、逆に、今日教育プログラムで大幅に取り入れられている《文化的事象》は最小限にとどめる」やり方を、ベルティエ・ド・ソヴィニーは自ら「《昔ながらの(レトロ)》スタイル」と任ずる。長命を保った碩学は生涯を通じて、マルクス主義史学からもアナール派史学からも距離を置き、代わる代わるの手法の隆盛に流されることがなかった。「一見したところの新しさとは、多くの場合、ふたたび見いだされた過去にすぎないということを、歴史教育に捧げられた長い生涯をつうじて、筆者は経験的に学んできているからである」という著者の姿勢は本書の筆致に通底している。

原著と同じく、邦訳も今後版を重ねることを期待したい。利用者として少し希望を言えば、その際には巻末の参考文献リストに、邦訳が存在するものには書誌情報を加えると、フランス史に興味を持った読者の便宜に供するのではないかと思う。略年表の充実、主要人名索引への原綴の付記があればなおありがたい。
この記事の中でご紹介した本
フランス史/講談社
フランス史
著 者:ギヨーム・ド・ベルティエ・ド・ソヴィニー
翻訳者:楠瀬 正浩
監修者:鹿島 茂
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「フランス史」出版社のホームページはこちら
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