帝国ホテル建築物語 書評|植松 三十里(PHP研究所 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月10日 / 新聞掲載日:2019年8月9日(第3301号)

帝国ホテル建築物語 書評
「ライト館」完成までの 道のりと人々の熱い思い

帝国ホテル建築物語
著 者:植松 三十里
出版社:PHP研究所
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ライト館は大正12年(1923)竣工のかつての帝国ホテル本館で、日比谷公園と道路一つ隔てて建てられていたが、昭和43年(1968)新本館建設のため解体された。わずか45年という短い寿命であったが、あの場所にあの圧倒的な存在感で鎮座した壮麗荘厳なあのホテルがあったという記憶がよみがえる。

本書は、20世紀を代表する世界的な建築家フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル2代目本館(通称「ライト館」)の完成までの十年に及ぶ道のりを愛知県犬山市の明治村への移築保存までの建築秘話を含めて描いた歴史小説である。

渋沢栄一と大倉喜八郎がニューヨークで古美術商として働いていた林愛作をまったく未経験のホテル業、それも帝国ホテル支配人として招聘したことから、「ライト館」建設が始まる。林愛作はホテルの新館の設計を古美術商時代の知人で浮世絵の蒐集家でもあった建築家ライトに依頼するのである。

妥協を許さない完璧主義者のライトは建築企画の段階で何枚も設計図を書いては修正することはもちろん、建築材料、建築生産でも徹底してこだわり、経営陣や職人たちと対立し、工事は難航する。日本を愛し、日本の美術に魅せられたライトは飽くなきこだわりをもって、独特な造形美や空間構成を創造しようとした。一方、ライトのアイデアを形にして応じた日本の職人の技術もすばらしい。異文化の交流と言ってしまえば単純だが、それはプロ同士の熱い闘いでもあった。建築の様子が、関わった人たちの人物像とともに描かれていくことこそ本書の読みどころであろう。とりわけ、愛知県常滑の黄色いスダレ煉瓦や青味がかった栃木県大谷石の採用の経緯は建築秘話として読者をひきつける。

心からライトを尊敬し、設計してもらうという強固な意志を持つ者・林愛作、愛作の意志を継承して完成にこぎつけるライトの日本における一番弟子・遠藤新の熱い思いとともに、「ライト館」完成までの困難な道のりが活写される。ライトと愛作、新の強い結びつきによって、「ライト館」は誕生したことを思い知る。

歴史小説作家の植松三十里は、確かな足跡を残しながらも、どちらかと言えば世に知られていない歴史上の人物に光を当て正面から描ききるという歴史小説を一貫して数多く発表してきた。本作では、幕末明治を生きた渋沢栄一と大倉喜八郎が登場するが、今回、光を当てているのは、林愛作と遠藤新の両人である。両人に対する入念な人物造形とともに、「ライト館」建築に携わった職人たちの気概、働きぶりから、当時の雰囲気、時代意識までがものの見事に再現されているのを味わうことができるのは歴史小説の醍醐味である。

120年余の歴史と魅力を有する日本の迎賓館・帝国ホテルの存在をかくも身近なものに感知させる歴史小説の誕生を嘉したい。
この記事の中でご紹介した本
帝国ホテル建築物語 /PHP研究所
帝国ホテル建築物語
著 者:植松 三十里
出版社:PHP研究所
以下のオンライン書店でご購入できます
「帝国ホテル建築物語 」出版社のホームページはこちら
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