加賀乙彦 寄稿  サイケデリック芸術論 ――LSD幻覚と文学 『週刊読書人』1968(昭和43)年6月10日号 1面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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  5. 加賀乙彦 寄稿  サイケデリック芸術論 ――LSD幻覚と文学 『週刊読書人』1968(昭和43)年6月10日号 1面掲載
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更新日:2019年8月11日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第715号)

加賀乙彦 寄稿
サイケデリック芸術論 ――LSD幻覚と文学
『週刊読書人』1968(昭和43)年6月10日号 1面掲載

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1966(昭和41)年
12月5日号1面より
「サイケデリック」略して「サイケ」などと呼ばれている言葉がある。これはLSDという幻覚剤を飲んで眼前にひろがる幻想の世界のことだが、この「サイケ」を芸術の創造に応用することが論議をよんでいる。現実を超越した空間的な精神の拡大からそれのもつ芸術性について、作家であり犯罪心理学を専攻する医学者で、LSD被験者でもある加賀乙彦氏に「サイケデリック芸術論」を展開してもらった。(編集部)
第1回
直接的で完璧な精神の拡大

LSD25はおそらく史上最大の幻覚剤である。何よりもその微量で効果を現わすということ、ひきおこされた幻覚や錯覚の豊富で鮮かであるという点で、他の幻覚剤をはるかに凌いでいる。ハレーシュ、メスカリン、サイロシビンの幻妙な力を越える秘薬、それがLSDなのだ。

今世紀、人間の精神を拡大した功績者といえばまずフロイトであろう。ところで彼の発見した無意識は熟練した精神分析家の辛抱強い努力の末でなければ姿を現わしてこない。しかも現われたものが求めた無意識であるという保証はなにもない。フロイトの精緻な心理学的体系は、この頼りない無意識を定着させ、その存在を他人に納得させるための壮大な虚構であるかにみえる。無意識の論理は、いつも「そうはいっても、しかし……」という別な論理の介入を許すのだ。

が、LSDの精神の拡大は直接的で完璧だ。それは薬をのむという単純な操作によって、抗いようもない未知の世界を開き示してくれる。体験には論理も説明もいらない。それはそのままで、サイケデリックな世界、つまり精神を富ましヴィジョンを拡げた世界なのだ。

この驚くべき薬の発見者の名がホフマンだというのは楽しい偶然の一致であろう。耽美と夢と幻想の詩人とサンド製薬会社の一技師の名を、私は心をときめかせつつ思うのである。一九四三年の春、技師ホフマンは、新しい表角アルカロイドの研究中に突然目まいと気分の動揺をおぼえた。研究室にある実験器具や友人の顔が奇妙にゆがみ、仕事を続けることができなくなった。帰宅してベッドに横になるや、快い酔い心地になり、異常に鮮明で多彩な幻覚が次から次へと押寄せてくるのを見た。この記念すべき日以後、LSDの作用についての研究はおびただしい数にのぼった。それは主としてアメリカで爆発的な耽溺者の大群をつくりだし、新しいサイケデリック・アートの誕生をうながした。その余波は最近わが国にも押寄せてきた。
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