世界を救う100歳老人 書評|ヨナス・ヨナソン(西村書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月17日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

世界を救う100歳老人 書評
あっぱれ!「101歳」
世界情勢を冒険小説という形で描き切る

世界を救う100歳老人
著 者:ヨナス・ヨナソン
翻訳者:中村 久里子
出版社:西村書店
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「各国のリーダーを翻弄する世紀のドタバタアドベンチャー」とオビにある。主な登場人物には、北朝鮮の金正恩、米国のドナルド・トランプ、ドイツのアンゲラ・メルケル、ロシアのウラジーミル・プーチンなど、錚々たる名前が連なる。本書は、著者ヨナス・ヨナソン氏の前作で世界累計1500万部を突破したという『窓から逃げた100歳老人』の続編だという。ただ、私自身が『窓から逃げた…』を読んでいないため、それだけの大ベストセラーとなった理由がよくわからないまま、本書を読み始めた。

物語は、主人公アランの101歳の誕生日パーティー祝いに、親友のユーリウスが熱気球を用意してくれたところから始まる。乗り込んだふたりは、興味の赴くまま、あれこれやらかした結果、気球は上昇し、やがてインド洋に不時着する。そこで彼らを助けてくれたのは、北朝鮮の船だった、と。そのあたりまでは、フィクションだ、面白そうな小説ね、という意識で読み進められた。しかし、北朝鮮の船が、ブリーフケースにしっかり収納した4キロの濃縮ウランを、複数の運送業者を使ってコンゴからブルンジ、タンザニア、モザンビークを経て、マダガスカル島へと運び、流通経路をテストしているとか、そこには金正恩を影で操るロシアのプーチン大統領の姿が見え隠れするとか、これまで「本当はこういうことなのではないか」と推測で語られてきたことを、あたかも真実のように描き切っていくストーリーの展開に、これが物語なのか、ルポルタージュなのか、よくわからなくなっていく。しかし、なぜか面白く、ついつい先を読みたくなる。なぜなら、舞台がインドネシア、インド洋、コンゴ、北朝鮮、スイス、アメリカ、ロシア、スウェーデン、ドイツ……と目まぐるしく変わっていく間に、現実における国際情勢の解説が絶妙なタイミングで織り交ぜられ、その流れの中に、101歳のアランと親友ユーリウスが入り込んで、世界のリーダーたちを翻弄していくからである。トランプ大統領の誕生以降、ヨーロッパ各国でも極右勢力が台頭しはじめ、難民・移民問題が政権を攻撃する格好の材料となっていることを指摘したり、北朝鮮とアメリカの緊張緩和の動きを「歴史的エゴイストが太平洋の両側にひとりずついる状況はふたり分ほど過剰だった」と言わしめたり。しかし、アランは、紙ナプキンにしたためた機密文書をもとに、北朝鮮に濃縮ウランが渡らないよう、総選挙直前のドイツのメルケル首相と交渉し、それを実現させる。私自身、実際にドイツ総選挙の取材に行き、メルケル首相と夫が投票する姿をこの目で確かめたので、書き綴られている選挙前後の情勢や夫婦の会話があまりにリアルで、アランは本当に実在したのではないか、という気にさせられる。世界情勢をこうした冒険小説という形で、時には皮肉たっぷりに、時には正義に期待を込めて描き切る著者の発想と筆致の強さは、あっぱれ!だ。トランプ大統領以上にディール(取引)が上手く、都合の悪いことには「101歳」という年齢を持ち出して話をはぐらかす。各国のエゴだけが目立ち、協調という路線はもはや風前の灯のように思える今日、アランのように世界を操ってくれる人物が現れてくれないかと、切に願う。
この記事の中でご紹介した本
世界を救う100歳老人/西村書店
世界を救う100歳老人
著 者:ヨナス・ヨナソン
翻訳者:中村 久里子
出版社:西村書店
以下のオンライン書店でご購入できます
「世界を救う100歳老人」出版社のホームページはこちら
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