怪物のトリセツ ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス 書評|坂田 薫子(音羽書房鶴見書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月17日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

怪物のトリセツ ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス 書評
誰もが心に宿す「怪物性(モンストロシティ)」
トリセツを手に新たな怪物との遭遇に読者を誘う

怪物のトリセツ ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス
著 者:坂田 薫子
出版社:音羽書房鶴見書店
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『怪物のトリセツ』――タイトルとして魅力的なのはもちろんだが、この言葉は本書の好ましい方向性をよく示している。『フランケンシュタイン』に登場する、その名も「怪物」をはじめ、『ドラキュラ』、『ジキル博士とハイド氏』、『ドリアン・グレイの肖像』、『タイム・マシン』、『モロー博士の島』、『宇宙戦争』など、イギリス文学には怪物的存在の登場する作品が少なくない。非日常的・超自然的存在だから読者はこれを忌避するかと思えば、そんなことはない。そういう非日常性にこそ、人は、ふだんは言葉にできない、敢えて言えば自身との「類似性」をさえ存分に重ね合わせてみることができるからだ。怪物や怪物的存在は、だから文学作品においてきわめて魅力的なのだが、時には無意識の意識でもあったりするそういう非日常性は、どう理解すべきか取り扱いに困惑する場合が少なくない。著者坂田氏はまず、そうした複雑な怪物を適切に表現してみせる。「どのように優れた文学研究者がどの文学理論を駆使して」も「たった一つの定義に収まってはくれない」という怪物の核心を捉えた著者の説明は、安易な結論を斥けつつ、怪物の取り扱いを丹念に、あくまでも冷静に吟味している。

だがもう一つ、本書には注目すべき重要な性格がある。取扱説明書を仕上げた上で、その説明書を読者に持たせ、新たに生じるであろう怪物との遭遇に読者を誘ってみせることにも成功しているという点だ。つまり、一研究書として論述を閉じるのではなく、成果を広く今後の文学研究に開いてくれているのである。著者が小さい頃から「赤ずきんちゃん」の話に感じていた謎に光を当てたアンジェラ・カーターの短編集『血染めの部屋』の分析や、『ハリー・ポッター』に映し出された現代イギリス社会に関する考察は、こうした視点から十分に評価することができよう。本書を片手に、18世紀から19世紀にかけてのイギリスで多く出版されたいわゆるゴシック・ロマンスを再読してみるのもよいし、『ハリー・ポッター』以後の現代イギリス小説に登場する怪物的存在に改めて注目してみるのもよい。そういう怪物たちの情報を、本書の索引に追記して行けば、より整備された読者一人一人の「取扱説明書」ができるはずだ。ひょっとするとそれは、私たち誰もが心の中に宿している「怪物性」に表現を与える貴重な「私の履歴書」になるかも知れない。

本書を読み終えて、改めて思う。「文明社会の陰り」にせよ、人種の「退行」現象にせよ、「他人種」との混淆にせよ、本書が怪物表象を軸に鮮やかに描き出してみせた諸現象は、決して閉じられた問題ではない。二十一世紀社会がまさに直面している問題である。怪物は今も私たちの身近に、ひょっとすると私たち自身の内部に、確かに存在しているのである。
この記事の中でご紹介した本
怪物のトリセツ ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス/音羽書房鶴見書店
怪物のトリセツ ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス
著 者:坂田 薫子
出版社:音羽書房鶴見書店
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「怪物のトリセツ ドラキュラのロンドン、ハリー・ポッターのイギリス」出版社のホームページはこちら
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