爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集 書評|トマス・モリス(柏書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月17日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集 書評
驚嘆すべき体内迷宮
奇抜で奇妙で不思議で恐ろしい医療実話集

爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集
著 者:トマス・モリス
翻訳者:日野 栄仁
出版社:柏書房
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 いまだ麻酔技術も開発されておらず、患者の激痛を考慮すれば手術はまさに時間との戦いであり、血液型の発見もしばらく先のことで輸血はある種の賭けにすぎなかった時代、医師のできることは現代とくらべればはるかに限られていて、現場での英断と直感の閃きに多くの治療が頼らざるをえなかった。本書は、そのような時代の奇抜で、奇妙で、不思議で、恐ろしい医療実話集である。

患者サイドから見れば、信じがたい愚行の結果としかいえそうもない悲喜劇あり、ただ「運がいい」というだけではすまされないような奇跡的生還あり、無論、戦慄の奇病体験もある。医師サイドから見ても、同じく、無意味な、あるいはむしろ危険を増幅させそうな愚かしい医療行為もあるが、「ミッション・インポッシブル」に直面して、喝采を送りたくなるような奇策に踏み切った医療英雄伝の方が印象的であるかもしれない。特例的な医学論文を引用しながら、著者はときに患者と医師双方の愚行にアイロニーを込めたため息をつき、ときに現代医学の知見から謎の解明を試み、またときに驚異の事例を前にして率直に感嘆の念を表明する。

本書を読む際に興を削がない範囲でいくつかの実例を列挙するなら、衆目を集めようと無数の折り畳みナイフを飲んだ水夫、同じような理由からグラスを噛み砕いて胃に流し込んだ青年、おそらくは堕落した目的で肛門にエッグカップを挿入し死に至った男性、異食症とおぼしき精神の病で針を飲み込み続けた少女、一介の航海士にすぎないのに難易度の高い血管縫合を完遂した素人男性、斧でまっ二つに切断された脳が元どうりにくっついた凶行被害者の男性、尿道結石を細いやすりで削り砕こうと試みた自己治療の医師、戦場で幾度もの攻撃を受けながら致命傷は皆無という幸運すぎる「負傷博物館とでもいうべき男」などが興味深かった。だが、特に惹きつけられた、不可思議で幻想的でさえある事例といえば、タイトルにもなった、ある地域で連続したという、激痛の後で突如爆発する歯、体内に保存された双子の片割れの死骸を吐き出した少年、癲癇発作を起こした子供の肛門に鳩の尻を押しつけて治療する(そのとき鳩は死ぬという)風変わりな療法、そして極めつけは、ガチョウの喉を飲み込み、それが自分の喉に貼りついて声がガチョウに似てきたという怪事件に見舞われた少年といったところであろうか。どうやら、当時、殺害されたばかりのガチョウの喉を吹いてその音色を楽しむという遊びが流行っていたらしいが、この遊び自体にも興味をそそられはしまいか。

本書を読み耽って思ったのは、体内迷宮の驚嘆すべき可能性であり、また、死の近辺を彷徨う実体験の、想像をはるかに凌駕する深奥であった。空想された物語には決して触れられない未踏の領域が、実話にはまだ残されているのであろうか。いつの時代も、死に急接近した現実とは驚異と謎のあまりにも豊かな宝庫なのかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集/柏書房
爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集
著 者:トマス・モリス
翻訳者:日野 栄仁
出版社:柏書房
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