ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門 書評|アニェス・ロカモラ(フィルムアート社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月17日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門 書評
次の十年にファッションを思考するために
思考のための基盤として、あるいは起爆剤として

ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門
著 者:アニェス・ロカモラ、アネケ・スメリク
翻訳者:蘆田 裕史
出版社:フィルムアート社
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原題は「ファッションを通して思考する:重要な理論家たちへの入門(Thinking through Fashion: A Guide to Key Teorists)」である(深読みかもしれないが、邦題にはおそらく日本固有の「ファッションと哲学/ファッションの哲学」の言説史への目配せもあるのではないか)。通読してみると、この書は、原題の通り「ファッションを通して、理論を用いて思考する」試みであると同時に、「理論を通してファッションを思考する」ものでもあることが分かる。

本書は、十六名の思想家たちの理論に基づいたファッションの分析を、英語圏を中心とする計十六人の執筆者が紹介するものであり、思想家の生年順に並べた章構成となっている。最初の章はマルクスである。次いでフロイト、ジンメル、ベンヤミン、バフチン、メルロ=ポンティ(この章では「新しい唯物論」にも言及がなされる)、バルト、ゴフマン、ドゥルーズ、フーコー、ルーマン、ボードリヤール、ブルデュー、デリダ、ラトゥールと来て、バトラーで終わる。

取り上げられている思想家の理論によって、また執筆者によって、各章の性質は様々である。一言で「ファッション」と言っても、社会現象として扱うもの、関係性やコミュニケーションの態様に着目するもの、身体やジェンダーといった側面(いわば抽象的な個)に言及するもの、個別のデザイナーによるデザインを取り上げるものなどがあり、また、理論を援用してファッションを分析してみせる章もあれば、ファッションを通して思想家の理論を解説する章もある。このことは、「ファッション」という語が持つ多義性と曖昧さを示していると同時に、個々の理論がいかなる対象の分析に適するのかが、それぞれに異なることの証しでもあろう。この多様性と拡散性は、「ファッション」を思考するうえでの陥穽になりうるが、それと同時に賭金でもあるはずだ。

ファッションをとりまく状況には、この二〇一〇年代に入って大きな変動があった。エシカルであることへの要請、ファストファッションの席巻(かつての作家論的デザイナー研究や「記号消費」概念の失効)、ファッションを取り巻くメディアの変容(雑誌からSNSヘ)、テクノロジーの変容がもたらした新たなマテリアルやスペクタクルの可能性、ジェンダーをめぐる認識のラディカルな変化などである。このような中で、本書はまさに、思考のための基本的な「道具立て」の選択肢を概観し、さらにはその「使用法」の実践に触れることのできる一冊である。

ところで、日本の読者にとって「ファッションと哲学」というテーマは、けっして目新しいものではない。あとがきでも名の挙がる鷲田清一は言うに及ばず、一九九〇年代には『現代思想』や『イマーゴ』、『エピステーメー』といった雑誌もこぞって身体や皮膚、顔といった、身体論的ファッション論と通ずるテーマの特集を設けていたし、一九九九年に開催された「身体の夢:ファッション OR 見えないコルセット」展は、ファッションと身体の関係を思索的に問うた試みとして、一つの時代を画するものであった。私自身、大学に入学した一九九〇年代半ば以降に、当時盛んだった「哲学的ファッション論」に興味を持ち、大学院修士課程に入学したときの研究テーマは、「衣服と身体」であった(その後、メインの研究テーマは「ファッション」ではなくなるのだが、このこと自体が、監訳者もあとがきで指摘する通り、学術の世界でファッションを扱うことの困難さの証左でもある)。

その後の日本にも、「ファッションを思考する」流れはあった。二〇一〇年代初頭には「ファッション批評元年」ムーヴメントが起こり、『ファッションは語り始めた』シリーズやファッション批評誌『vanitas』(創刊号のみ『fashionista』)の刊行など、ファッションをクリティカルに思考し語るための「批評言語」の模索がなされた。しかし、その後の動向が見えづらくなってきたのではないか、と思っていたところに、今回の『ファッションと哲学』邦訳が刊行されたのである。この書を思考のための基盤として、あるいは起爆剤として、次の十年間にも新たな「ファッションを思考し語る」流れが起こり、そして今度こそは定着することを、一読者としても願っている。
この記事の中でご紹介した本
ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門/フィルムアート社
ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門
著 者:アニェス・ロカモラ、アネケ・スメリク
翻訳者:蘆田 裕史
出版社:フィルムアート社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門」出版社のホームページはこちら
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