道尾秀介 ロングインタビュー 『いけない』(文藝春秋)刊行記念|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月16日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

道尾秀介 ロングインタビュー
『いけない』(文藝春秋)刊行記念

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いけない(道尾 秀介)文藝春秋
いけない
道尾 秀介
文藝春秋
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作家・道尾秀介氏が最新作『いけない』を上梓した。本作は、各章の最後に現れる一枚の写真によって、物語の意味が大きく変化する体験型ミステリーとなっている。刊行を機に、道尾氏にお話を伺った。        (編集部)
第1回
新しい形の「本」

道尾 秀介氏
――第一話「弓投げの崖を見てはいけない」は、競作アンソロジー『蝦蟇倉市事件1』に収録された一作でもあります。道尾さんを含め五人の作家が、架空の街・蝦蟇倉市を舞台にして、物語を著された。その続編を書こうと思った経緯を、まずお聞かせ下さい。
道尾 九年前に第一話を書いたときから、ものすごくいい話が書けたので、より多くの読者に広めたいという気持ちがありました。ただ、単に中篇を集めた本にはしたくなかった。続編を書くのなら、「中篇・中篇・中篇・終章」で一つの大きな物語になる方法で書きたいと思っていました。そうすることで、中篇集にも長篇にもできない、何か大きなことができるのではないか、と。けれど、当時は腕が足りなかったこともあり、まだ難しかった。
その何年か後に『ノエル』という本を書きました。三章プラス終章の構成なんですが、各章を独立した中篇としても読むことができ、なおかつ終章までいくと大きな物語が現れる。我ながら上手く書けた、力がついてきたなという自負もありました。そして今年、作家デビュー十五年目を迎え、いまならもっと新しいものがつくれるのではないかという自信が持てたので、長年考えていた難題に挑戦することにしました。
――競作を書くときと比べて、何か違いはありましたか。
道尾 特にありませんでした。元々あの企画が持ち上がったとき、蝦蟇倉市という名前や全体の地形を考えたのが僕だったので。けれど、蝦蟇倉市は、既に一つの街として世界が出来あがっている。新たに物語を創作する上で、「弓投げの崖」と地続きになってる場所が欲しかったのですが、街自体を変えることは出来ません。
そこで北側に、「白沢市」という新しい市を作りました。市の名前は、妖怪について書かれた中国の書「白沢図」が由来です。二章に出てくるシィナンという妖怪は、その「白沢図」に出てきます。知っている人ならばニヤッとする裏設定ですね。
――既発表の中篇三本と書き下ろしの終章を一冊にまとめる際、何に一番気を遣われたのでしょうか。
道尾 まず、誰も読んだことがない新しい形の本にするということです。そして小説を毎日読んでいる人、これが生まれて初めて読む小説だという人、どちらのレイヤーの人でも楽しめる本を目指しました。この作品は、あまり小説を読まない人でも、最後まで読めば何が起きたか必ず分かる。逆にミステリーを読み慣れている人や、疑り深い人、想像力のある人だと、また違う景色が見えてくるようになってます。
たとえば、今言った第二章。作中で、中国の妖怪話が出てきます。あの話の謎を解くと、さらに怖い事実が見えてくるかもしれない。同じ本を読んでいるのに、読む人によって違う出来事が起きているように感じる。そういう面白い本を書きたかった。
――各章の題は「○○してはいけない」で統一されています。これは最初から決めていたのでしょうか。
道尾 そもそも、「弓投げの崖を見てはいけない」という題がものすごく気に入っていました。また、僕自身「パッケージング」にこだわるタイプなんです。どんな商品にもパッケージングがありますよね。小説にもあって、たとえば文字の割付け方や、ページを開いたときの文字と余白の割り合いとか。章題や目次も、小説のパッケージングの要素の一つであり、重要です。今回は、章題の文字数も全て合わせるようにしました。
細かいことですが、章の最後の行がどこに来るのかにもすごくこだわります。ページぴったりで話が終わると一瞬、次のページにも続いているのではないか、と思ってしまう人もいる。ほんの小さな考えが邪魔をして、読み心地を変えてしまうんですね。そういう場合、必ず、行数を調整するようにしています。
小説は、些細なことで物語が全く変わってしまうことがあります。たとえば、翻訳小説なんかにも多いけど、セリフをカギ括弧で閉じて、その下に地の文が直接続くスタイルがありますよね。好みの問題ですが、僕はそれをしません。すると、そのスタイルに合わせてセリフも変わる。セリフが変わればストーリーもちょっとずつ変わり、キャラクターの性格さえも変わってくる。文体が小説を変えるということが、実際に起きるんですね。
――本作は各章最後のページに示される写真で、物語の意味が大きく変わります。この仕掛けが斬新で、本当に面白く拝読しました。こうした試みを、小説に導入しようと思った理由をお聞かせ下さい。
道尾 今は「目の競争」の時代だと言われています。いかにして、自分の創ったものに目を向けてもらうか。同じことを続けていては、あっという間に人から目を向けてもらえなくなります。そこで、僕自身が読んだことのない、新しい形の本を作ろうと思ったわけです。話の最後に写真があり、その写真によって物語の意味合いがガラッと変わる。大前提として、それぞれが独立した物語として楽しめる必要がありますが、最後の一ページをめくった時に違う真相が立ち現れてくる。そんな仕掛けを小説に取り込みたいと思ったんですね。
もう一つ。一冊の本にするのであれば、統一性を持たせたかった。第一章では、地図が重要な役割を果たします。この流れを壊したくなかったんです。地図自体は画像だけれど、あたかも「文字」のように機能する。画像が文章を説明するのではなく、世界を想像させるために、文字と同じ役割を担っている。最後まで文章を読んで、それで物語を十分楽しめるけれど、写真と併せて深読みをすれば、違った真相が見えてくるかもしれない。全体を通して、そんな本にしたかったわけです。
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この記事の中でご紹介した本
いけない/文藝春秋
いけない
著 者:道尾 秀介
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「いけない」出版社のホームページはこちら
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