道尾秀介 ロングインタビュー 『いけない』(文藝春秋)刊行記念|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月16日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

道尾秀介 ロングインタビュー
『いけない』(文藝春秋)刊行記念

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第2回
世界を作り上げる工夫

――細部の話をお伺いします。道尾さんのミステリー小説は、どの小説も伏線が絶妙です。今回も、たとえば一章は「時間」が重要な伏線になっています。
道尾 
 祭りの山車が商店街を移動する方向や、移動にかかる時間、商店街の真ん中には何があるか。小さな部分をきちんと見返すことで、最後に何が起きたのかが分かる。そういう細かな要素を書きこんでいくのは難しいけれど、書いていてものすごく楽しい。新たに地図を作る作業も、大変だけれど面白くて、書きながら「これじゃ話が成り立たないな」と考え直して、路地を一本増やしたり。文章ばかり書いていても、新しいことは出来ない。自ら挑戦することによって、今までにない小説がつくれるんだと思います。
――二章「その話を聞かせてはいけない」は中国から来た少年、珂が主人公です。今まで外国人を主人公にした作品はなかったと思います。これも、新しいチャレンジの一つだったのでしょうか。
道尾 
 これまでにも、子どもはわりと書いてきました。けれど、日本にやってきた外国人の視点では書いたことがなかった。新しいことに挑戦すると、それをきっかけに予想もしていなかった、別の新しいものがたくさん見えてくる。二章の場合、主人公を中国人の少年にしたことで、家族内の会話は中国語になる。でも、中国語で書いても読者は分からないので、フォントを変えて表現する。すると今度は、そのフォントにもこだわらなければならない。そうやって工夫をしながら小説の世界を作り上げていくのは、本当に面白いです。
――二章は、心に刺さる言葉の数々が印象的でした。学校の先生の何気ない一言に傷ついた珂の心情を、次のように描写されています。「たとえば茶碗の中に米じゃない変なものが一粒入っていたような気持ちを起こさせる」、「人を透明にするようなことを平気で言って」。
道尾 
 主人公になりきって小説を書いていくと、自然といい感じの比愉が出てくるんですよね。

たとえば、『staph スタフ』という長篇作品で、初めて女性を主人公にしました。あの時、自分でもびっくりしたことがあります。男性を主人公にした場合に出てくる比喩と違った。肌の粗い人を「ハンバーグのような顔」とか、面長で両目がつりあがった人は「縦半分に切ったパプリカを思わせる」とか、そういった比喩に自ずとなっていた。手に入れたはずのものが音もなく消えていく心情は、「ネックレスの鎖のように、指のあいだからするすると落ちていく」と、ごく自然に書いていました。男性視点で書いていると、絶対に思いつかない比喩です。主人公の目で、物事が見えてくれるんです。
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この記事の中でご紹介した本
いけない/文藝春秋
いけない
著 者:道尾 秀介
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「いけない」出版社のホームページはこちら
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