連載 オーシュの「独立と想像の映画祭」におけるシネクラブ    ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 118|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
更新日:2019年8月19日 / 新聞掲載日:2019年8月16日(第3302号)

連載 オーシュの「独立と想像の映画祭」におけるシネクラブ   
ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 118

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左後姿がドゥーシェ(ディジョンの映画館にて)

JD 
 『ハウス・ジャック・ビルト』には、五つの偶発的な出来事があり、五つの段階による進展があります。それぞれの段階は、最初の段階、二つ目の段階、三つ目の段階などと言えます。そして同時に、一つ目の事件、二つ目の事件、三つ目の事件と表現することもできます。私たちは、段階を登っていく様を見ることができます。そのような観点からすると、演劇的上昇の物語を見ているようでもあります。しかしながら、同時に理解しなければならないのは、『ハウス・ジャック・ビルト』の物語は上昇であると共に、下降でもあるということです。物語の最後は、馬鹿げた結末を迎えることになります。物語はに落ちるためにこそ、それぞれの段階を登っていくのです。要するに、構造自体の中に二重性もしくは対立が存在しているのです。高みへと昇っていたと思ったら、実は下層へとたどり着いた。その事実こそが、作品の与える意味なのです。そうした作品の意味は、ありとあらゆるものに対して言えます。なぜならば、それぞれの階層、それぞれの段階において、複雑な反響があり、複雑な構造が見えるからです。それぞれの事件に対して心理分析を行う――精神分析と言ってもいいかもしれませ――、そして説明を試みることさえできます。そのシリアルキラーは何であるのか。私たち観客は、当然映画の観客としてスクリーンの外から、全く別の状況の中にあったはずです。しかし、映画の観客とは一体なんなのでしょうか。もし映画の良い観客であるのならば、うまくいった作品に足を運ぶでしょう。映画において、うまくいくとはなんなのでしょうか。それは、犯罪映画です。つまり、刑事ものの映画です。そのような土壌においては、物語は語られるために存在しているのではありません。考察させるために存在しているのです。心理分析や精神分析、精神を病んだ人間といったものが私たちの目の前に姿を見せるのです。

この映画の主人公となる男は、〔ブルーノ・ガンツ演じる〕ウェルギリウスの声によって、静かながら、少しずつ彼の運命へと引きずられていきます。その運命とは、地獄です。別の言い方をすると、『ハウス・ジャック・ビルト』は人類の歴史について考察した映画なのです。その人類とは、西洋の人間性です。ラース・フォン・トリアーは全人類を考察するようなことはしませんでした。西洋についてだけ語る自制心を持っているのです。言い換えるならば、西洋社会にはびこる人間性の様々な位相について語っているのです。

この作品には、事件を語るための演劇的構造のようなものはありません。犯罪小説あるいは普通の小説のような世界があるわけでもありません。あなたたちは、オデュッセイアの世界の中にあるのです。つまり、ポンペイの叙事詩です。もしポンペイの世界が見て取れるのならば、そこには人類の歴史が語られています。問題となる人類とは、西洋の人間のことです。西洋の基礎となった文化と感性を形作ることになった、いくつかの挿話が私たちの目の前に現れるのです。私たち西洋文明を語った最初の芸術作品とは、ホメーロスのオデュッセイアです。続くようにして、ウェルギリウスのアエネーイスがあります。そして、ダンテの存在を感じることもできます。わかりやすい影響を与えたわけではありませんが、ジョットによって創り上げられた世界を見ることもできます。要するに、三〇〇〇年に渡る西洋の人間の人類史が語られているのです。

その人間についての考察は、どこに到達するのでしょうか。作品自体の構造を考えるのならば、上昇を見ることができます。犯罪行為へと徐々に向かっていく上り坂です。一人また一人と殺しを行い、シリアルキラーとなる。最終的には、六〇人近くの死体があり、それが六一人、六二人と数を重ね続けていくのです。その上昇こそが、作品の中に見て取れる最初のものです。しかしながら、同時に意識しなければならないのは、その上昇は下降でもあるということです。それぞれの段階への上昇は、完全に文明化された人間の、完全な西洋の人間の想像界へと向かっていく段階的な下降なのです。その西洋の人間こそが、結果として二〇世紀の人間へと達することになるのです。
〈次号につづく〉
(聞き手・写真=久保宏樹)
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