鶴見俊輔✕小田実 “喋る”論理のすすめ ――現代知識人の課題は何か 『週刊読書人』1964(昭和39)年9月7日号 1~2面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月18日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第541号)

鶴見俊輔✕小田実
“喋る”論理のすすめ ――現代知識人の課題は何か
『週刊読書人』1964(昭和39)年9月7日号 1~2面掲載

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第3回
“戦後世代”の可能性 ――非軍事思想を定着する途

小田 実氏
小田 
 戦後の人たちの共通点は何かというと、いろいろ考えたんですよ。そうしたら、大熊信行氏のいうところの、国家意識の欠如、これはたしかですよ。それから漠然と平和思想、こういうこともたしかです、それからもう一つは、本のなかで少し触れていますけれども、軍備をもたないということの思想ですね。それは、いい意味でも悪い意味でもそうですよ。非軍事の思想といったら、変な言い方だけどね。それは、ぼくは韓国に行って感じたですね、ものすごく。自分が軍隊をもっていないということ。自衛隊というのはありますけれども、それは日かげの存在みたいなものだ。徴兵制はない。そういう国から来たということを、アメリカのときも感じたけれども、韓国ではもっと感じたですね。つまり同じような顔をしているし、かつて日本だったんだから、同じような過去をもっている。そういうものだから、もっとひしひしと感じたんです。
鶴見 
 そこのところは、私は、ここ十年見ないとわからないと思うんです。どの程度のものかということがね。自衛隊というのが急速につくられているしね。それをうかうかと受入れてしまっている人たちが戦前派だけでなくて若い人にもある。その可能性はこわいしね。
小田 
 つまりぼくは守るべき価値としてしゃべっているんですよ、非軍事の思想とか、平和思想、それから国家に対する疑念ですね。それから、これにも書いていますが、ナショナリズム一本槍にもなれないし、インターナショナリズム一本槍にもなれない立場に、われわれはおかれている。どっちつかずといえば、どっちつかず。どっちつかずの状態を、たいへん積極的に考えたいと思っているんです。
鶴見 
 どうもあと十年見ないと戦後の若い人たちの意味というのは、確定できないような気がしてしようがないです。それがどうなるかというのは、アメリカの世界政策とからまっているのでね。いまのような仕方でアメリカが無謀なアジア政策を進めると、かえって日本では非軍事の思想が定着するんじゃないか。あまり危険だしね。いまベトナムに日本の自衛隊が投入されたら、自衛隊の中には抵抗あると思いますよ。いまスパッとベトナムに行けということになるとね。アメリカ側のほうは日本の自衛隊をそういう目的に使うことに何にも抵抗ないんだ。日本の自衛隊はアメリカの命令のままにベトナムに投入すべきだとアメリカの世論は思っていますよ。なぜ日本は戦わんのだ、そのくらいの考えだから。日本でいま自衛隊をベトナムにもっていったならば、自衛隊の指揮者のほうは大喜びですよ。実戦の機会が得られるし、自分たちがどれだけ優秀かを示してやるというので、無邪気にアメリカに奉仕すると思うけれども、隊員の中には、命が惜しいし、それにあの戦争だいたい片づかないし、しばらくやっているうちにいや気がさしてきますよ。日本にその種類のニュースが流れてくる。昔の軍隊みたいに、手紙も出せないということはないですからね。そうすると、日本で、親たちや兄弟たちはおこりますよ。だんだん、それがかえって非軍事の思想を日本に定着させると思うね。それがきっかけになって。だけど、アメリカがもっと冷静に考えていけば、逆に非軍事の思想を日本に定着させない条件ができるという気がします。だから、こんどゴールドウォーターが出るか、加藤周一がもっとリアリスチックにうまく書いていたけど、ゴールドウォーターの政策がジョンソンに影響をもたらす場合、これがいちばん可能性が多いんだ。
小田 
 自衛隊が連れていかれたときに、命が惜しいといってやめるのは、若いやつでしょう、これをどういうふうに評価するんですか。
鶴見 
 そういうの、おもしろいと思うんですね。
小田 
 封建の遺産をどんどん食いつぶして、だんだんなくなったから、そういうやつが出てきたということにならないですか。ぼくはそういうものの力を、もっと認めてもいいと思う。
鶴見 
 私は可能性として認めているんですよ。しかし、認めているんですが、それに期待をかけることは、あまり……どうもそれは責任もてないような気がするんだな。
小田 
 それなら、鶴見さんに聞きたいんだけれども、いったいどうすればいいかということですよね。

それをぼくはたいへん考えたんです。いったい戦後は何をもたらしたかということですよ。新教育というのは、鶴見さんのあまり良くない教科書だが、それがけっきょくわれわれをつくったわけですね。それが何を積極的にもたらしているかということなんですよ。ぼくの考えたのは、生活綴り方というのはむかしからあったけれども、それを大幅に現実の場でみんながやり出したのは戦後だろうと思うんです。それだけじゃ、たりないだろうということ。つまり下からのアプローチを重んじた。現実に足をつけようということを、われわれは重んじてやってきた。それだけではたいへん弱いんじゃないか。現実自体はかわりやすいし、動かされやすいし、上からの何かがいるんじゃないかということを……。上からの圧力が、下から上ってくる理想主義をいろんな形でゆがめられていると思うんですよ。そうしたら、上からもう一本、ゆがめられない形で、何か心棒みたいなものがいるんじゃないかと考えられるわけです。

そうすると、いったいそれが何かということになるし、それが下手するとどっかの権威にすがるということになってしまう。いままでの借りものということになってしまう可能性があるんじゃないかと思うんです。これを、生活綴り方だけじゃなくて、自分たちで考えるということをやらなきゃいけないと思うんだけどね。
鶴見 
 私は、だいたい一つの道というのは信じないんですよ。
小田 
 いろんな道があるでしょう。それはもちろん。
鶴見 
 封建の遺産は相当食いつぶしたが、まだ残っている。ことに農村にはあると思うんです。兼業農家にどんどんなっていくけれども、メンタリティは農村的ですね。共同体という思想があるでしょう。それはこれからも相当程度残っていくだろう。それを開発していかなければいけない。それを全部反革新の側に向けちゃったわけですね、戦前、戦中は。それをもう一度取戻していかなければいけない気がするんですよ。いままでの革新派のやり方とか、モダンの人たちのやり方というのは、たいへん工合が悪いところがありはしないかと思っているんです。共同体的な人間というのは、そういういろんな習慣をもちながら、平和のほうにゆっくり立直っていく、そういう姿勢ね。

それは初期の創価学会にあったと思うんです、戦中までのね。近ごろのはまずくなっているけれども。それから、もっと小さい集団だけれども、大本教とか、日本妙法寺とか、そういうところについている人たちの中にはありますよ。非常にがっちりとした、幕末的な人間像だな。それと一緒にやっていくというのはそれも一つの方法だし、また完全に不定形の「おれたちは命が惜しいよ」「ああ、そうだな」とぺらぺらしゃべっている、ただしゃべっている人間、そういうのはいいと思うんだ。それが自衛隊の中に、末端で、「ベトナムで死ぬのいやだよな。退職金いくらだ」とか、そんなこといつでもしゃべっている。つまりしゃべってもしゃべってもしゃべりつかれない自衛隊員というものの像は、たいへん重大だと思う。あるとき、しゃべりつかれちゃって、もう……、これはあぶないんだ。そのときはナチスが来るときですよ。
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この記事の中でご紹介した本
日本の知識人 【小田実全集】/ 講談社
日本の知識人 【小田実全集】
著 者:小田 実
出版社: 講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本の知識人 【小田実全集】」出版社のホームページはこちら
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