鶴見俊輔✕小田実 “喋る”論理のすすめ ――現代知識人の課題は何か 『週刊読書人』1964(昭和39)年9月7日号 1~2面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月18日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第541号)

鶴見俊輔✕小田実
“喋る”論理のすすめ ――現代知識人の課題は何か
『週刊読書人』1964(昭和39)年9月7日号 1~2面掲載

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第5回
“実務インテリ”の評価 ――逃げる口実と設計の意志

編集部 
 思想の科学の大野力さんあたりが実務インテリとしてのビジネスマンの価値をすごく評価しているんですけれどもね。その問題について……。
小田 
 実務インテリという言葉がいいかどうかわからないけれども、まあそれを使うとしますね、それを不当に評価する向きと、不当に蔑視する向きと、二つあると思うんですよ。たとえば日本の企業の中で働いている人たちを評価するときに、それを完全にけなす人たちと、ものすごく評価してしまう人がいると思うんですよ。

ぼくは、わりといろいろなやつとつき合う機会が多いんです。日本の企業のところどころにいるわけですね、勤めていて。そいつとつき合っている。そういうやつが、たとえば自分の企業を――たとえばある雑誌が企業の特集をやったときに、ものすごく甘い特集をやりますね。評論家が書く場合、ものすごく甘く評価する。あるいはめちゃくちゃにけなした評論を書く。そういう企業の中に入っているやつは、いろんなことわかっているわけでしょう。いろんなことがわかっているから評価がそんなに甘くないし、といって完全に絶望するでもないという状態にあるわけです。そこのところ、やっぱり考えないといけないと思うんです。そういう実務インテリが完全に立派であるということはあり得ないわけですよ。立身出世とか、みんなからみ合っているわけです。それを見ながら、日本の将来を少し考えているとか、適当に考えているところがあるんだな。適当に考えているところというのは、やっぱり評価してもいいと思うんですよ。

そういうものを評論家が見た場合には、適当に考えているところだけを取上げて、これは非常にすばらしいということになってしまう可能性があるが、また適当のほうに重点をおいて、これはだめじゃないか、立身出世じゃないかと言ってしまうおそれがある。そこのところ、もう少しキメを細かくしてみていきたいと思うんです。
鶴見 
 実務インテリということを言った方が、逃げることの口実に使われないように、やっぱりそれを称える人はみずからいましめてほしいと思いますね。たとえば極端な例をあげれば、前の東京都知事の安井誠一郎なんていうのは、実務インテリかどうか考えてもらいたいんだ。

あれは何にもしなかった。するチャンスがあったにもかかわらず、できなかった。ああいうのを分析しなくちゃだめだと思うんです。彼が本気になってやれば、東京が本気になってやれば、東京はどれだけ変ったかわからないんですからね。

こういう内側の敵というものを徹底的に追求できる思想でなければ、思想の値打はないと思うんですよ。最も悪質なタイプの、似て非なる実務インテリを退治することができないような実務インテリ論というのは、意味ないです。

思想インテリだったってそうです。似て非なる思想インテリが退治できない思想インテリは意味ない。たとえば実存主義者という名の思想インテリがあるが、そういう者の大部分は、ただ酒が好きで、「ああ人生はニヒルだ」といってみるにすぎないでしょう。シェストフだ、ドストエフスキーだといって本人はあまりニヒリスチックな暮しはしていない。親から資産をもらって結婚して、生活を楽しんで、小市民的で、利子計算などしている。全然実存主義と関係ないですよ。そういうのは退治しなければいけないしね。それを退治できるような思想をもつのがほんとうの思想インテリですよ。

実務インテリの場合も、池田成彬とか小林一三というのは実務インテリですよ。だけど、そうじゃない、安井誠一郎と結託しているというタイプのはだめなんだな。ああいうの、徹底的に退治しなければいけないという気がしますね。その退治することを、実務インテリはあまりやらないんだよ。いまの実務インテリ、思想は非常に鋭いところをもちながら全体としては逃げることの口実、退くことの口実ではなかろうか。
小田 
 思想インテリはそういうものに対して、非常に弱いんじゃないかと思うんだ。戦後すぐというのは、たいへんみんな攻撃したわけですよ、そういう生活態度。むちゃくちゃに攻撃した。それは不当に攻撃したと思います。しかし、いま不当に甘やかしているんじゃないかと思う。それはいけないと思うんですよ。知識人というものの立場というのは、やっぱり対等ならば、自分を主張すべきだと思うんですよ。そうでないと、対等でないという気がします。思想インテリの場合も、実務インテリがおかしければ、おかしい点は追求すべきだと思うんだ。
鶴見 
 だから、実務インテリというからには、それを正当化して、それによってかせいでいる経営学者と経営評論家でなくて、大原総一郎とか、ああいう人を評価すべきだ。大原総一郎は腹をすえて、中国と日本を正面衝突にもちこむまいという不退転の決意がある。一生けんめい独占資本のかじ取っているんです。それが、独占資本はだめだ。打倒しろなんて言っているのとは、全然違うわけだね。ああいう人には設計の意思があるな。これは認めるべきじゃないかと思うんですよ。ほんとうの学者、評論家だったら、その設計図をみずから書くというところでしょう。
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この記事の中でご紹介した本
日本の知識人 【小田実全集】/ 講談社
日本の知識人 【小田実全集】
著 者:小田 実
出版社: 講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本の知識人 【小田実全集】」出版社のホームページはこちら
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