鶴見俊輔✕小田実 “喋る”論理のすすめ ――現代知識人の課題は何か 『週刊読書人』1964(昭和39)年9月7日号 1~2面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人アーカイブス
更新日:2019年8月18日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第541号)

鶴見俊輔✕小田実
“喋る”論理のすすめ ――現代知識人の課題は何か
『週刊読書人』1964(昭和39)年9月7日号 1~2面掲載

このエントリーをはてなブックマークに追加
第6回
百年の大計を考えて ――正統な意見を固執すること

編集部 
 知識人の問題を考える場合、大切なことは、論理の他に、行動を支える倫理という問題があると思います。とくに現在のように平安な社会では、真にわれわれにとっての価値を判断する倫理観というものが大切だと思うのですが、最後にこの問題について話していただきたいと思います。
小田 
 それにぼくは二つの立場をとっていますよ。どこまで妥協するかということ、倫理と論理の兼ねあいでね。そしてどこまで自分が動くかということですね。けっきょく個人と社会との問題でしょう。個人と社会との中で、どこまで自分を守るかという点に、倫理がかかってくるわけでしょう。ぼくは現実的な立場をとっているんですよ。自分の現実対しても、現実主義をとっているんです。現実主義自体、現実主義で見なきゃいけない。それ自体が動かされているものだということを考えなきゃいけないと思うんですね。そういうような倫理のもち方というものがあると思うんです。そうすると、安保以後ころっと変るということはあり得ないと思うんです。一つ一つの状況に応じて変る場合に、どっか一つのきめ手がないといけないと思う。

ぼくの場合だったら、それはリベラリズムだと思うし、リベラリズムを非常に戦闘的なものとして考えたい。そういうものを自分の倫理の基調にしたいとぼくは思うんです。
鶴見 
 倫理というのは、百年の大計を考えなきゃいけないと思うんですよ。ことに実行家の場合、そうなんでね。この三年、これでやるからと、ぺたぺた妥協するのは倫理的じゃないと思うんですよ。だから、この道路つくるのがいいとか、この国とは同盟結ぶべきじゃないということが、百年あとで考えてみてそれが大衆の役に立ったと思えるようなところを、ゆっくり掘り続けていって、次の人にこの道をついで行ってもらいたいと要求し、そういう小さな部分を受持つというふうでなければ、実行家の倫理は出ないと思うんですよ。

自分の考えが間違っていたら、退くべきですね。その点、いまの日本の政治家は根本的に間違っているんでね。たとえば椎名悦三郎なんか、戦争中の軍需次官がいまの外務大臣でしょう。実にけしからんやつだ。

つきつめていけば、こんなことは実行できないけれども、天皇陛下は退位しなければいけないですよ。そういう意見をもち続けるということが、日本としては大切だと思うんですよ。天皇陛下は非常にいい人だ。市民としても暮せるだけの力をもっている人ですよ。だけど、天皇陛下は本来退位すべきだったという考え方を保ち続けていけば、天皇制のコースが悪用されることに対しては、みずから防げると思うんですよ。
小田 
 われわれは二十世紀にいるわけで、天皇制の存続理由について説明があるべきだと思うね。納得できる存続理由というの、一ぺん聞きたいと思っているんだけどね。封建の遺産の中にも入りますよ。いいポイントになっているかもしれない。それは認めていい、しかし、論理的につきつめて言えば、ぼくはやっぱり考えるわけなんだ。そうすると、いったいこれは存続理由があるかどうか……。
鶴見 
 世の中というものは論理だけでは片づかない、という思想の代表としてある。
小田 
 それはわかるけれども、それはたえず疑わなければいけないと思っているわけなんだ。
鶴見 
 その思想にある種の根拠があることを認めなきゃいけないんだ。
小田 
 しかし大義名分としては、表から考えなきゃいけない。生活綴り方の欠点は、現実から考えるところにあるわけでしょう。ぼくは大義名分、ほんとうの建前というのはもう一ぺん追求すべきだと思う。それがずいぶん抜けてきて、ほかの人の建前を援用している面がものすごく強いわけでしょう。ぼくははっきり言って、公式主義のすすめというのがいるんじゃないかと思う。非常に現実主義がある。それに対してカウンター・バランスするために、公式主義がいる。
鶴見 
 いま、公式主義が非常に必要なときですよ。昭和十三年ごろに戸坂潤が「中央公論」に「人吾を公式主義者と呼ぶ」というエッセイを書いているんだ。立派なものですね。あの時代として旗を高くかかげたものなんだけれども、いま非常に必要ですね。そういう意味で、わたしは共産党を認めているんだ。存在理由があるし、一緒にやっていこうと思っている。現代に必要な公式主義だからという一点で認めるね。吉本ほど、共産党にかみつきたくないですよ。
小田 
 これは人の話ですから事実かどうかわからないがありえることだと思う話なんですが、いまの皇太子がイギリスに行ったわけでしょう、戴冠式に。そのときにプレジデント何とか号に乗って行って、フィリピン人に、「あなた、何と呼んでいいかわからない」といわれたら、「ユーと呼んでよろしい」と皇太子が言った。そして“Because you are not my subject”――そんならわれわれは臣下(サブジェクト)か。そんなふうに彼が本当に考えているとしたら、これは大変なことです。ぼくは彼の「臣下」になったつもりは、こんりんざい、ありませんからね。これは大変なことですよ。
鶴見 
 そのために、戦争が終ったときに退位すべきだったということを、何回も繰返し固執することだ。あのときこうすべきだったということを、二十年たっても繰返し言うのは、正当な意見ですよ。正しいことは正しいんだもの。これから十年二十年、その立場は負け続けだと思うけれども、言い続けなきゃいかんと思うんだ。実務インテリは言わないと思うんだ。しかし、百年の大計を考えればそれこそ実用的な意見ですよ。(おわり)
1 2 3 4 5
この記事の中でご紹介した本
日本の知識人 【小田実全集】/ 講談社
日本の知識人 【小田実全集】
著 者:小田 実
出版社: 講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本の知識人 【小田実全集】」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
鶴見 俊輔 氏の関連記事
小田 実 氏の関連記事
読書人アーカイブスのその他の記事
読書人アーカイブスをもっと見る >
学問・人文 > 哲学・思想関連記事
哲学・思想の関連記事をもっと見る >