陽を入れて袋のような雲がある日豊本線車窓の桜  吉川宏志『青蟬』(1995)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

現代短歌むしめがね
更新日:2019年8月26日 / 新聞掲載日:2019年8月23日(第3303号)

陽を入れて袋のような雲がある日豊本線車窓の桜  吉川宏志『青蟬』(1995)

このエントリーをはてなブックマークに追加

詞書(解説文)として「私の故郷は宮崎である。大学の春休みに帰省した。」とあるように、宮崎県への帰省の途上を描いた一首。作者は当時、京都大学の学生であった。日豊本線は北九州市の小倉駅から大分駅、延岡駅、宮崎駅および都城駅を経由して、鹿児島駅までを結ぶJR九州の路線。日向国(現在の宮崎県)と豊後国(現在の大分県)の頭文字をとって「日豊」である。途中に経由する延岡は、旅の歌人・若山牧水の故郷だ。

まるまると膨らむ春先の雲を「陽を入れて袋のような雲」と表現する比喩が、実に卓抜な歌。それでいて下の句は「日豊本線車窓の桜」と、なんだか絵はがきのような、ありがちであまり個性のない表現になっている。はるか上空にある遠景と、だんだん地元という日常へと突入してゆく近景。その対比が表現レベルの差としても表れているということなのだろう。

歌集では次に〈ウォークマン聴きおり特急「にちりん」の西側座席に陽の差せるころ〉という歌が入っており、このとき乗っている車両が特急「にちりん」であることがわかる。かつては「ひかり」という名であったが、新幹線の「ひかり」が誕生したときにその名を譲ったといういきさつがある。現在はもうなくなっているが、1992年までの「にちりん」には、下関駅に乗り入れする便があった。京都から帰省している作者も、もしかすると下関駅から「にちりん」に乗ったのかもしれない。(やまだ・わたる=歌人)
このエントリーをはてなブックマークに追加
山田 航 氏の関連記事
現代短歌むしめがねのその他の記事
現代短歌むしめがねをもっと見る >
文学 > 日本文学 > 短歌関連記事
短歌の関連記事をもっと見る >