――『ホビットの冒険』『指輪物語』の誕生の原点―― 『トールキン 旅のはじまり』 彼の人生の旅に去来したのは、学生時代の仲間だった。  ドメ・カルコスキ監督作品/出演:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズほか|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月26日 / 新聞掲載日:2019年8月23日(第3303号)

――『ホビットの冒険』『指輪物語』の誕生の原点―― 『トールキン 旅のはじまり』
彼の人生の旅に去来したのは、学生時代の仲間だった。
ドメ・カルコスキ監督作品/出演:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズほか

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8月30日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー  ©2019 Twentieth Century Fox

映画の冒頭は、第一次世界大戦、フランスのソンムの戦い。激しく戦闘が行われる中、部下の制止を振り切って、ひとりの兵士の姿を求め、塹壕をさまようトールキン。兵士は学生時代からの親友・ジェフリー…。

ニコラス・ホルトがみずみずしい演技でトールキンの青春時代を演じ、それに並行して創作にまつわるエピソードが描かれていく。

父と母を早くに亡くし、弟とともに十二歳で孤児となり、母の知人の司祭が後見人となって、裕福な女性宅に下宿しながら名門パブリック・スクール(私立校)、キング・エドワード校に通い出すトールキン。

現在でも英国の生徒数の一割未満のみが通うというパブリック・スクール。当時の生徒も家柄が良い富裕層の子息たちばかりの中、孤児で奨学金で学ぶトールキンは異色の存在だった。クラスでも意地悪をされもするが、やがてその聡明さから一目置かれるようになり、ジェフリー、ロバート、クリストファーという三人の心通じる友を得て芸術や文学の創作をし、お茶を飲み語り合う秘密のソサエティ「T.C.B.S.」*を結成。

パブリック・スクール時代の友というのは、十三歳から十八歳の多感な少年時代をほぼずっと同じ顔ぶれで過ごす。トールキンは通学生だったが、全寮制のところも多く、寮単位(一学年十数人、それが五学年、同じ寮にいて持ち上がる。このハウスと呼ばれる寮によるハウス・システムは、通学制の学校でも採用されている)でスポーツ、音楽、旅行、イベントなども一緒だ。そのため兄弟のように強い絆で結ばれることが多い。さらに趣味を同じくするソサエティ(日本でいう大学の同好会に近い。英国のパブリック・スクールではユニークで専門的なものも多く、文学や政治、魔術やワイン研究など生徒が探求したいさまざまな分野のものを立ち上げている)は、彼らにとって最高に居心地がよい場だったはず。生き方を自由に選ぶことが難しかった時代、彼らは夢を語り合い、お互いの才能を認め合い、共に困難を乗り越えようとしてきた。

中でも大学も同じオックスフォードへ、そして後に共に陸軍に入隊したジェフリーとの友情は、下宿で出会ったトールキンの最愛の女性、エディスとの別れを覚悟しなければならなかったあるシーンでとても胸を打つ。詳細は書かないが、そのシーンを見た後で、冒頭のトールキンが戦場で狂ったように行方不明のジェフリーを探すシーンを思い出すと胸が痛む。さらに、友愛の証のようなラストにも。

女性への愛とはまた別の、友情を超えた親友が互いを思う気持ち。ジェフリーとトールキンの間に強く深く結ばれたそれは、トールキンの作品で語られるフェローシップで、本作がメインテーマとしたのはまさに彼の人生の旅に去来した学生時代の仲間だったのでは。

話はそれるが、作品内、学生は芝生を横切ることが許されないという描写は、トールキンが在籍していたオックスフォード大学一部カレッジで今も続く伝統。実際に同大学での撮影でもあり、細部にまでこだわりを感じる。(いしい・りえこ=ライター、エディター)

*ティー・クラブ アンド バロヴィアン・ソサエティ
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