産業遺産巡礼《日本編》 / 7145(弦書房)産業遺産の価値の多様性を伝える 市原 猛志|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月26日 / 新聞掲載日:2019年8月23日(第3303号)

産業遺産の価値の多様性を伝える
市原 猛志

産業遺産巡礼《日本編》
著 者:市原 猛志
出版社:弦書房
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 『産業遺産巡礼』という本著タイトルが一般書籍に使用できる時代になったことが、産業遺産を取り巻く変化の中でも一番象徴的な出来事といえよう。地元北九州地域の産業遺産を歴史的背景とともに紹介した書籍を2006年に23名の共著で発行した際は、産業遺産ではなく、『北九州の近代化遺産』というタイトルを用いた。産業という言葉と遺産という概念がミスマッチである、また企業の中には「うちは現役施設なので産業の遺産と呼ばれたくない」と抗議を受けることもあったからだ。書籍を通じて広く紹介したいと思う対象はそれほど変わっていないにもかかわらず、この産業遺産という言葉のみで多くの方々が工場や炭鉱、近代にできた生産設備を想像できるようになったのは、ここ最近の話である。具体的に言えば、「富岡製糸場と絹産業遺産群」や「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された頃からではなかろうか。この書籍は、そのような意味で言えば、産業遺産という言葉が一般に広く知られるようになっていく2010年代半ばにおける、全国各地の産業遺産の様子を伝えるレポートであり、筆者自身が産業遺産の価値を広くわかりやすく伝えられるよう写真に収めた解説本でもある。

有名な出来事や著名な建物が成立するまでには、表面化されたごく一部の背景に数多くの知られざる物語が内包されている。とりわけ産業遺産には、その時代特有の地域事情や企業機密などの問題から、文献資料のみではいまだ明らかになっていない事実も多い。私は産業技術史の研究とともに、文書館などを中心に行われているアーカイブ(記録にかかる作業)に関わる研究者として、それ、それらを調べることを使命と考えている。日本各地に遺る各種の遺産には美しいものもある一方で、一見その価値がわからないものも存在する。そういったものの価値を理解するためには、専門的な観点で解説ができるような人間(インタープリタと呼ばれる)が必要とされるが、日本ではまだまだ役割としての成立過程にあるといってもよい。本格的なインタープリタが全国各地に生まれ成長するまで、研究者として日本全国各地に残る産業遺産をできるだけ多くめぐり、いまだ明らかになっていない歴史的課題に対して産業遺産を介して明らかにしていきたいと思っている。そうしてできたこの書籍は、産業遺産の持つ価値の多様性をより多くの方々に伝えていくための手近なツールであってほしい。(いちはら・たけし=産業考古学・産業遺産研究者)
この記事の中でご紹介した本
産業遺産巡礼《日本編》/弦書房
産業遺産巡礼《日本編》
著 者:市原 猛志
出版社:弦書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「産業遺産巡礼《日本編》」出版社のホームページはこちら
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