ルネサンスのライヴァルたち ミケランジェロ、レオナルド、ラファエッロ、ティツィアーノ 書評|ローナ・ゴッフェン(三元社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月24日 / 新聞掲載日:2019年8月23日(第3303号)

ルネサンスのライヴァルたち ミケランジェロ、レオナルド、ラファエッロ、ティツィアーノ 書評
美術家をとりまく熾烈な競争の世界

ルネサンスのライヴァルたち ミケランジェロ、レオナルド、ラファエッロ、ティツィアーノ
著 者:ローナ・ゴッフェン
翻訳者:塚本 博、二階堂 充
出版社:三元社
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 ルネサンスの四大巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ティツィアーノは、ルネサンスにとどまらず、西洋美術史上最高の天才であり、彼らのいずれが欠けてもその後の西洋美術史はかなり異なったものになったであろう。みな15世紀末から16世紀前半という同じ時代にイタリアで活躍しており、レオナルド以外の3人は互いを意識して対抗心を抱き、影響を与えあっていた。

本書はアメリカにおけるルネサンス美術史研究の碩学が、ミケランジェロを中心に、彼らの複雑なライバル関係を、膨大な同時代資料と研究、そして作品分析によって解明しようとした労作。舞台はルネサンス発祥の地フィレンツェ、次いで教皇が威光を放ったローマであり、文化の爛熟したヴェネツィアのティツィアーノもそこに加わる。美術家どうしだけでなく、彼らに作品を注文するパトロンどうし、美術家を論評する批評家や弟子どうしのライバル心も激しかった。優れた作品を入手することは君主の声望を高めたため、イタリア内外の君主が彼らの作品を得ようとしのぎを削ったのである。

ミケランジェロは世間から超然とし、弟子もとらずに独力で大作に挑んだ孤高の巨匠と思われているが、それは彼の擁護者や彼自身が宣伝したイメージにすぎなかった。実際の彼は自分が得たい仕事をライバルに奪われることを心配し、パトロンに陳情し、友人に愚痴をこぼす悩める芸術家であった。本書は、手紙や記録によって伝わる美術家やパトロンの肉声を駆使し、美術家をとりまく熾烈な競争の世界を鮮やかに浮かび上がらせる。

だが、ライバル対決が高揚するのはこうした人間関係よりも、あくまで作品どうしの関係であった。彼らが相手を出し抜くために、いかに異なる様式を用いるか、いかにわからぬように模倣するかという作品のドラマこそが本書の中心である。ミケランジェロとレオナルドがフィレンツェ政庁の同じ広間で壁画を制作しようとしたこと、ミケランジェロとラファエロがヴァチカン宮殿の近接する部屋で同時に壁画を制作したことなど、史上名高い大規模な競作だけでなく、一見まったく競争とは関係のなさそうな作品や素描にも、ライバルへの反発や称賛の痕跡を著者は鋭く読み取っている。ときに深読みにすぎると思われる箇所もあったが、熟練した美術史家の慧眼によって、こちらも作品を見る目を何度も新たにさせられた。

実力の伯仲する天才だけでなく、ローマでラファエロに対抗するためにミケランジェロに素描を提供してもらったセバスティアーノ・デル・ピオンボ、大胆な様式によってヴェネツィアの公式画家ティツィアーノの地位を脅かしたポルデノーネ、フィレンツェのダヴィデ像の対となる巨像の制作をミケランジェロから奪い取ったバッチョ・バンディネッリ、そしてこのバンディネッリを敵視して殺人まで企てたチェリーニら、天才の陰にうごめく小巨匠たちの暗躍も本書に彩りを添える。

評者はかつて、イヴ=アラン・ボアの『マチスとピカソ』という本を翻訳したが、20世紀美術最大の天才である二人も互いを強く意識して反発しあい、影響しあっていた。こうしたライバルのドラマはいつでも見られるだろう。本書の取り上げた盛期ルネサンスのイタリアだけでなく、17世紀初頭のローマ、19世紀から20世紀初頭のパリ、20世紀後半のニューヨーク、あるいは18世紀後半の京都などは、こうしたライバル争いが沸騰することによって新たな美術が誕生し、美術の中心地になったのだ。

彼らは一方的に影響を受けたり、かたくなに反発したりするのではなく、ライバルから学ぶべきものを貪欲に吸収し、同時に自らの強みや個性を厳しく模索して斬新で力強い創造性を示した。まさに天才は天才との競合から生まれるのだ。

注も含めて七百頁近い大著だが、読みやすい訳文によって一気に読ませる充実の内容であり、一般人から専門家まで満足させる模範的な美術史の良書である。
この記事の中でご紹介した本
ルネサンスのライヴァルたち ミケランジェロ、レオナルド、ラファエッロ、ティツィアーノ /三元社
ルネサンスのライヴァルたち ミケランジェロ、レオナルド、ラファエッロ、ティツィアーノ
著 者:ローナ・ゴッフェン
翻訳者:塚本 博、二階堂 充
出版社:三元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ルネサンスのライヴァルたち ミケランジェロ、レオナルド、ラファエッロ、ティツィアーノ 」出版社のホームページはこちら
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