犬からみた人類史 書評|大石 高典(勉誠出版 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月24日 / 新聞掲載日:2019年8月23日(第3303号)

犬からみた人類史 書評
イヌ―ヒト関係史の百科全書
人間中心主義に陥らぬよう様々な専門分野の執筆者による一書

犬からみた人類史
著 者:大石 高典、近藤 祉秋
編集者:池田 光穂
出版社:勉誠出版
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 人類史においてイヌがヒトといかに長く深くつきあってきたのかは、少し前に話題になった『サピエンス全史』にも書かれていた。他方で舘章らの盲導犬ロボットの開発はすでに数十年の蓄積を持ち、昨年AIB0がモデルチェンジされたのは記憶に新しい。

本書、『犬からみた人類史』は、こうしたヒトとイヌの人類史を犬の側から見るために、文化人類学と生態人類学の両者に精通する研究者が一緒になって編んだ挑戦的な著作である。これまで人類学はその名の通り、他学との差異化で人を中心に研究を進めてきたが、「人間」の枠組みがそれを包囲する動植物や植物の間で生成変化することを深く認識したマルチスピーシーズ人類学の研究会は欧米でも日本でも進められてきた。

全19章+5コラムは、考古学者や民俗学者、猟師のみならず、人間中心主義にならないよう動物行動学者や動物心理学者、生態学者や遺伝学者ら23人の執筆者により著されており、まさにイヌ―ヒト関係史の百科全書たる観がある。全体は、イヌ―ヒト関係の発生と深化を探求する「第1部 犬革命」、近代システムにおけるイヌ―ヒト関係の諸相を活写する「第2部 犬と人の社会史」、そして、目前にあるイヌ―ヒト関係からやや離れ、多様な可能態から未来像を構想する「第3部 犬と人の未来学」からなる。紙幅の都合で各1部2篇の紹介を許されたい。

第1部ではイヌ―ヒト関係発生を探ることから自然に自然科学者が多く登壇しているが、なかでも注目は藪田慎司の「イヌはなぜ吠えるか―牧畜とイヌ」と今野晃嗣の「イヌとヒトをつなぐ眼」である。藪田はオオカミからイヌが進化的分岐をして、オオカミが吠えないのにイヌがかくも多様な吠え方をするのかを探り、人類史における牧畜誕生との関係を探る。また今野は、本来「犬猿の仲」になりかねないイヌとヒトが、サルからヒトが進化的に分岐して視線が強調されるようになり、オオカミから分岐したイヌは黒目が強調されるようになったことで相互に視線を合わせて愛着を形成する「最良の友」になったという。

こうして人類の伴侶種として人に視線を送るようになったイヌの近代を探るのが第2部である。ここは社会史なので人類学者や文化史学者の得意とするところになるが、大石高典「カメルーンのバカ・ピグミーにおける犬をめぐる社会関係とトレーニング」や近藤祉秋「「聞く犬」の誕生―内陸アラスカにおける人と犬の百年」が印象的だ。大石はピグミー成人43名に飼われていた112体を個体識別し、名づけ、贈与、森の猟での協働と集落における躾、とくに薬を用いた犬のトレーニングから猟犬の社会史を活写している。また近藤は内陸アラスカのディチナニク人が「犬に話しかけてはいけない」とする禁忌を、白人による犬ぞり導入の百年史との関係から読み解き、本来は全存在が人間であったとする彼らにおいて、両者の境界が乗り越えやすかったからこそ禁忌が重んじられるようになったのではないかと考察する。

最後に未来の関係を探る第3部では、私たちとは異なった関係のあり方が可能態として描かれる。注目は菅原和孝と池田光穂の論考で、本書を頭から読んできた読者には、オオカミと袂を分かち人類に寄り添ってきたイヌの「犬死に」の視線は哀切極まりない。柳瀬尚紀がジョイス読解で披瀝した犬の視線説も紹介してほしかったが池田のイヌ目線での強がりがせめてもの救いだ。しかしどちらの論考もその出会いがなければ拓かれなかったイヌから拓かれた視線とも言えよう。
本書は近年専門家にしか分かりにくくなった人類学の成果を一般に開かれたものにした。本企画は想像力を刺激し、かつての『十二支考』のように動物を変え12冊の連続本を出して欲しいし、動物を超えて植物との関係史も読みたくなる。そうなったら本書を読む時間がなくなることは必至なので、今のうちに本書を読んでおくべし、なのである。
この記事の中でご紹介した本
犬からみた人類史/勉誠出版
犬からみた人類史
著 者:大石 高典、近藤 祉秋
編集者:池田 光穂
出版社:勉誠出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「犬からみた人類史」出版社のホームページはこちら
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