想い出すままに 与謝野鉄幹・晶子研究にかけた人生 書評|逸見 久美(紅書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月24日 / 新聞掲載日:2019年8月23日(第3303号)

想い出すままに 与謝野鉄幹・晶子研究にかけた人生 書評
宝の真価を発揮するためにはらった精励
ひたむきな鉄幹・晶子研究と、敬父への愛情

想い出すままに 与謝野鉄幹・晶子研究にかけた人生
著 者:逸見 久美
出版社:紅書房
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 逸見久美さんの「自分史」だが、与謝野鉄幹(寛)と晶子研究一筋に文字通り生涯を貫いた生き方は感動の一語に尽きる。人は出生に際して親を選べない。ここには逸見さんが幸運な星(親)の下に生まれたことが顕示されていて羨ましくなる。本書は鉄幹・晶子研究に全身全霊を打ち込むことになった発端、経緯から、研究過程の難行・苦行の詳細と、その道を用意し、援けてくれた敬愛して止まぬ父君翁久允氏の生涯との二重構造になっている。私は逸見さんを大先輩として尊敬し、初めて刊行の名著『評伝與謝野鐵幹晶子』には教えられることが多かった。この著書刊行に至る苦難の経緯の詳述に、同じ研究者として苦難の道程は同じでも、私の場合は徒手空拳で紹介者も無く手探りだったが、逸見さんは幅広い知己・人脈を持つ『週刊朝日』編集長で、発表場所となる『高志人』主宰者で文人の父、さらには学生時代、折口信夫・武田祐吉・金田一京助・土岐善麿・本間久雄・柳田泉・塩田良平・守随憲治等々錚々たる碩学の教えを受け、女性作家研究書の嚆矢となる『明治女流作家論』の著者塩田良平の個人的助手となって行を共にし、原稿の聞き書きをするなどで研究者の実地訓練を受けている。こんな幸運に恵まれた女性研究者がいたとは寡聞にして知らなかった。しかも、これらの方達を通して生涯にわたる與謝野夫妻の援助者小林天眠、晶子の高弟岩野喜久代と親しく交わり、書簡その他で得も言われぬ恩沢を受けていることなどに垂涎、羨望が先立ってしまう。

だが、どれほど恵まれていてもそれを活かせる才と努力がなければ宝は持ち腐れになる。宝が宝の真価を発揮するためにはらった精励がいかばかりだったかがここには詳細に描かれている。晶子の書く文字は読みにくい。読みこなすだけでも大変だがそこを克服する過程には頭が下がる。本書は鉄幹(寛)・晶子の評伝・研究書ではないので、評価、批判に踏み込んでいないのは当然だが、「君死にたまふこと勿れ」の第三連や、夫を追っての渡欧時に明治天皇の訃報を知った時の悲慟について「陛下への人間的な敬愛が沸々と謳われ、これらは晶子の真情の吐露」と晶子の天皇への崇敬・憧憬が積極肯定されていて、戦時下、戦争のプロパガンダを努めたことへの厳しい批判のないことに物足りなさを覚えたものの、逸見さんの晶子が好きで好きでたまらぬ心情が全編に横溢していて感動される。瑕釁を採りあげて批判するよりも秀美の面披露に情熱を傾ける方法に作家研究の本領があるのかもしれない。

巻末といっても一〇一ページにわたる動顛される「書誌」と逸見さんの業績に対する書評を含む評価の記録に顕示されるが、只ひたすら鉄幹・晶子のみの研究と、この研究に関わる敬父について愛情溢れる著述で一貫した研究者は希有だろう。この克明な記録明示の内実に、与謝野鉄幹(寛)・晶子一筋に人生を賭けた研究者逸見久美が屹立すると言えるのではなかろうか。
この記事の中でご紹介した本
想い出すままに 与謝野鉄幹・晶子研究にかけた人生/紅書房
想い出すままに 与謝野鉄幹・晶子研究にかけた人生
著 者:逸見 久美
出版社:紅書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「想い出すままに 与謝野鉄幹・晶子研究にかけた人生」出版社のホームページはこちら
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