むらさきのスカートの女 書評|今村 夏子(朝日新聞出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
更新日:2019年8月28日

薄気味悪さがくせになる

むらさきのスカートの女
著 者:今村 夏子
出版社:朝日新聞出版
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今回は、第161回芥川賞を受賞した今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」を選んだ。

主人公の<わたし>の近所には<むらさきのスカートの女>と呼ばれている女性がいた。近所では有名で、公園には専用のベンチまでもあり、子供たちからはからかわれている。主人公はそんな彼女と友達になりたいと願い、毎日行動を観察し続け、さらには自分と同じ職場に就かせるように誘導する。
無事同じ職場で働くことになった<むらさきのスカートの女>だが、慣れない新しい環境で上司との関係を噂されたり、上手くいかない。その後上司と口論になり、彼女を助けようとする<わたし>だったが・・・。奇妙で少しゾクっとする今村さんらしい世界観で繰り広げられる物語。 
実は、芥川賞候補の発表前から今村さんを応援していた。『こちらあみ子』を中学生の時に読書感想文の題材として選び、それ以来その独特な世界観にはまってしまった。だから、今回の芥川賞受賞はとても嬉しかった。
『こちらあみ子』の主人公は、私にとても鮮烈なイメージを残した。「むらさきのスカートの女」の主人公<わたし>もそうだ。「この人と友達になりたい」。そう思うのはいいが、この主人公の行動はやりすぎている。毎日同じバスに乗り、いつも観察し続ける。そのため語り手も<わたし>である。面白くてあまり思わなかったが改めて読むと<わたし>はもはや危険なストーカーだ。思えば、せっかく同じ職場で働くことになったのに友達になれないまま終わってしまった。もしかしたら、存在自体に憧れを抱いていたのかもしれない。
終始、うす気味悪い雰囲気漂うこの感じは何なのだろう。不思議に感じた。登場人物も大きな原因になっているけれど、それだけではなく、文章からも不穏な雰囲気がある。「ぱりぱりぱりぱり。むらさきのスカートの女のスカートの上に、アーモンドのかけらが零れ落ちた。左手を受け皿のようにしているのに、指の隙間からぱらぱらとこぼれがこぼれ落ちていく。」「食べ終わるまでは何も見えない、聞こえない。もぐもぐ、ぱりぱり。おいしい、おいしい。」パンを食べる<むらさきのスカートの女>を観察しているこの文章が一番印象的だった。特に文中に登場する擬音が更に不穏さを増している。描写がクローズアップされて、音まで頭の中に繰り返し聞こえてきて、より鮮明に映像が頭の中に生まれてくるからかもしれない。そして喋っていないのに「おいしい」と二回も出てくる。相手の表情を読み取って二回も連呼させる<わたし>に狂気さを感じてしまった。

著者である今村さんも不思議な人だ。人と会話の少ない仕事を転々として作家にたどり着いたという。その才能はすぐに見出された。はじめて書いた小説が太宰賞を受賞し、単行本一作目で三島賞、二作目で芥川賞候補、河合隼雄物語賞、三作目でも芥川賞候補、野間文芸新人賞と立て続けに注目を浴びた。しかし、その中でもプレッシャーからなかなか小説を書くことが出来なくなった時期があったという。そのブランクを乗り越えて芥川賞を受賞できたのだ。

この唯一無二の小説、読み始めたらもうくせになってしまうだろう。私のように。
渡辺小春
今年の夏休みは花火もみれて満喫です!
この記事の中でご紹介した本
むらさきのスカートの女/朝日新聞出版
むらさきのスカートの女
著 者:今村 夏子
出版社:朝日新聞出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「むらさきのスカートの女」出版社のホームページはこちら
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