石川信雄『シネマ』(1936) スウイイト・ピイの頬をした少女のそばに乗り春の電車は空はしらせる |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年9月2日 / 新聞掲載日:2019年8月30日(第3304号)

スウイイト・ピイの頬をした少女のそばに乗り春の電車は空はしらせる
石川信雄『シネマ』(1936)

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スイートピーと春の電車という取り合わせに松田聖子『赤いスイートピー』の歌詞「春色の汽車に乗って」というフレーズを思い出してしまうが(作詞は松本隆)、なんと昭和11年刊行の歌集に収められた短歌である。二・二六事件勃発の年だ。

作者は前川佐美雄とともに「モダニズム短歌」の中心となった歌人で、当時の口語短歌ブームの中で、プロレタリア派に対抗した新芸術派の一翼を担った。戦後は英米文学の翻訳家として活躍し、歌人としては忘れられていった。しかし2013年に第一歌集『シネマ』が復刻されてからは現代短歌の先駆けの一人として再評価の機運が進んでいる。翻訳家としてはハインラインをはじめSF小説を多く手掛けた。

『シネマ』はそのタイトル通り、当時の最先端ポップカルチャーであった映画の影響を受けている。「スウイイト・ピイの頬をした少女」のようなモダンな表現も、「春の電車は空はしらせる」のような空想的な表現も、映画で観た光景と考えたらそれほどの違和感はない。ただ、純粋な空想ばかりとも言い切れない。歌人の奥田亡羊は、『シネマ』に空をうたった歌が多いことを、関東大震災後の焼け野原と急ピッチな復興に感じた空虚さの表現と読み取ろうとしている。

太平洋戦争直前の文化には、意外と軽薄で能天気なものが目立つ。それは短歌も例外ではなく、モダニズム短歌は軽薄さが特徴であった。それは、民衆たちの社会不安の裏返しであったのだろう。(やまだ・わたる=歌人)
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