カール・シュミットと その時代 書評|古賀 敬太(みすず書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月31日 / 新聞掲載日:2019年8月30日(第3304号)

カール・シュミットと その時代 書評
その思想の全体像をとらえる試み
シュミットは時々の問題とどのように格闘し、応答し、行動したか

カール・シュミットと その時代
著 者:古賀 敬太
出版社:みすず書房
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 本書は、すでに『カール・シュミットとカトリシズム』『シュミット・ルネッサンス』を著し、シュミットの著作や海外の数多くのシュミット研究書を翻訳・紹介してきた、我が国のシュミット研究の第一人者による、シュミット思想の全体像をとらえようとする待望の書である。内外を問わず、シュミットに関して無数の文献が存在するにもかかわらず、「国法学者としてのシュミットの思想や活動の全貌を示す研究書は稀」であるため、「国法学者としてのシュミットが、国家秩序の変遷の中でいかにして憲法秩序の枠組みの中で時代を克服しようとしたかを追跡し、できるだけ内側から再構成しようと試みた」きわめて意欲的な書物である。

「ワイマル共和制の擁護者」から「ヒトラーの桂冠法学者」へと変身した、謎の多いシュミットの思想の変遷を考察する場合、研究者によっていくつかの時期区分が存在するけれども、本書は、シュミットの憲法・政治思想の変遷および精神的軌跡を、第一次大戦期、ワイマル初期、ワイマル中期、ワイマル後期、ナチ時代、ボン基本法体制期という六期に分け、『国家の価値と個人の意義』(一九一四年)から『政治神学Ⅱ』(一九七〇年)に至るまで、シュミットのほとんどの主要著作を時代順にとりあげ、それらを当時の時代状況や論争と関連づけながら、彼の発表した雑誌論文や新聞掲載論文のみならず、シュミットの日記や書簡を利用しつつ、丹念にたどっている。その意味において、本書は、「シュミットを専門的に勉強していない読者にとっても、入門の書となる」ばかりでなく、出てくる疑問を次々に解き明かしていく、一種「謎解き」のような、最後まで読み通すことを楽しみ得る書でもある。

とりわけ、それは、「非常事態=例外状態」との関係において示される。第一期において、シュミットは、独裁と戒厳状態を区別し、さらに対外的な戒厳状態(戦争)と国内治安の維持としての戒厳状態を区別して、権力分立や法治国家の原則を守るという自由主義的立場から後者の戒厳状態と緊急権の拡大を批判していたし、第二期では、第48条の緊急権をもつ大統領を「委任独裁」と捉え緊急権の拡大を認めるが、立法と行政の区分を守るため、緊急権の行使を「措置」と捉え、委任独裁が主権独裁に転化する危険性を強調していた。すなわち、緊急権の展開を法治国家思想の枠内で展開しようと「ぎりぎりの努力」を行っていた。そして、「大統領の緊急権が一度も行使され」ず「比較的安定していた」第三期において、シュミットの憲法論や政治思想の骨格が構築されることとなる。しかし、緊急権の行使によりかろうじて存続していた大統領内閣の理論的旗手となる第四期では、「議会の多元的な分裂の危機から国家の統一を守るため」、とりわけ「ナチ党や共産党といった反民主主義政党が政権を掌握し、憲法体制を破壊する危険性」から国家および憲法を守るため、「法治国家的なコントロールを排除」し、大統領を主権的独裁者にする道を開くことになる。すなわち、「憲法体制の枠組みの中でドイツの統一を守るための努力」を行いつつも、緊急権行使の主張により、「議会制と法治国家を掘り崩す役割を果たした」のである。第五期は、成立したナチ政権の「桂冠法学者」として活躍し、また失脚する時期であるが、この「反ナチから親ナチへの転換」を「合法的に構成された権威への服従」ととらえるのではなく、憲法的諸原理よりも「国家の統一」を優先させたからではないかと指摘する。全権委任法の制定をきっかけにワイマル体制から完全に訣別したシュミットは、レーム事件に際して、「緊急事態」における行政・立法・司法の全権限を総統に認めるに至るが、シュミットのこの転向を、「ナチズムの恣意的な支配や絶えざる革命に終止符を打ち、そこに、ある一定の秩序や合法性をもたらそうと試み」「一定の枠組みを設けようとした」からととらえ、ここに、これまでの決断主義的思考から「具体的秩序思考」への転回を見る。これこそ、のちの「グロース・ラウム理論」に結実し、戦後の「ヨーロッパ公法体系」へと発展するものだからである。戦後の第六期においては、ボン基本法に追加された緊急事態条項をめぐる議論において、ワイマル憲法48条第2項に関するシュミットの解釈は批判的に扱われていたことや、基本法への緊急事態条項導入に関するシュミットの覚書にみられる導入反対の見解、シュミットの緊急権に関する見解を自由主義的に継承したシュミット学派の国法学者、E・W・ベッケンフェルデなどの理論を示しながら、シュミットの位置を明らかにしている。

本書の意義は、こうしたシュミットの緊急権や「非常事態=例外状態」に関する理論展開を、その時々の国法学者の議論・論争の中に位置づけることによって、シュミットがその時々の問題とどのように格闘し、応答し、行動したかを明らかにしている点である。また、シュミットの日記や書簡にみられる「露骨な反ユダヤ主義的感情や異性に対する異常な性愛など本能的な感情や行動」「精神的にもアップダウンが激しく、時折自殺衝動がみられる」点が、シュミットの思想の「両極性」に反映しているという指摘や、「概念的な二項対立」の強調から生み出される「概念の呪縛」こそ、「政治的立場を問わずシュミットに魅了された人々の辿った陥穽であった」という指摘も意義深い。そして何よりも、「シュミットは矛盾の人である。……しかし、その矛盾を矛盾として排斥せず、その矛盾に内在し、なぜそのような矛盾が生じたかを理解する複眼的な思考が必要」という指摘は、本書の視座を示すものとしてだけでなく、思想研究全般において重要である。
この記事の中でご紹介した本
カール・シュミットと その時代/みすず書房
カール・シュミットと その時代
著 者:古賀 敬太
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「カール・シュミットと その時代」出版社のホームページはこちら
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