紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人 池宮城秀意の反骨 書評|森口 豁( 彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年8月31日 / 新聞掲載日:2019年8月30日(第3304号)

紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人 池宮城秀意の反骨 書評
反骨の言論人が時代といかに関わったか
安倍対米従属政権の政策にたいし、明確な批判の視点を示す

紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人 池宮城秀意の反骨
著 者:森口 豁
出版社: 彩流社
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著者の森口豁さんとは、七〇年代末にお会いしている。彼が日本テレビのディレクターだったころで、テレビドキュメンタリーの制作会社、オルタス・ジャパンを創設した小田昭太郎さんの紹介だった。

その後、沖縄・八重山の小島、鳩間島を取材した彼の作品をみた。小学校を廃校にさせないために、島の老人たちが力を合わせるドキュメンタリーだが、全編に流れるディレクターの優しい感情は、いまでも記憶に残っている。

森口さんは大学に入る前の春休みに、後輩の金城哲夫(ウルトラマンのシナリオライター)との縁で、沖縄に行って高校生たちと交流している。まだ日本復帰前だったから、きわめて貴重な体験である。一九五八年、大学を中退して琉球新報に就職、沖縄での最初の「日本人記者」となる。復帰の十四年前、いかにも早い。

本の内容に入るまえに、著者の紹介からはじめたのは、いよいよ本文は「紙ハブ」と呼ばれた毒ハブのように、いちど噛みついたら離さない新聞記者・池宮城秀意の一生と沖縄苦難の戦前・戦後史、さらにそれを描く著者の個人史が、あたかも絡み合うハブのように、三つ巴になって歴史を蛇行して進むからである。

著者の強みは、復帰前、まだ日本の新聞が「特派員」を派遣するまえから、地元記者として復帰にむかう時代を取材していることである。

池宮城秀意は戦前、左翼運動の容疑で逮捕、投獄されていた。五年の懲役刑だったが、三年後、昭和天皇の誕生日(天長節)名目の恩赦で釈放される。敗戦の年に三七歳で補充兵として召集、沖縄戦のなかで捕虜となり、運良く生き延びた。

戦前から「沖縄日報」の記者だったが、戦後「うるま新聞」の編集長、社長となり、沖縄言論界の重鎮となる。この本のテーマは、反骨の言論人としての池宮城が時代といかに関わったかである。

意表を衝かれる思いをしたのは、戦後、日本復帰論(世論調査で八四%)が強まるなかで、彼は復帰派でもなく、独立派(同三%)でもなく、少数派(七%)の国連の信託統治を、「うるま新聞」の社説で堂々と主張していたことだった。

「沖縄人はアメリカに媚びる必要もなければ、同様に日本に感傷を送る必要もない」という主張は、アメリカの占領下から脱して国連の保護下にはいり、まず復興を遂げ、そのあとに望ましい地位を見いだそう、とする二段階論だった。

いまとなっては、即時復帰論と国連統治下、そのどっちが沖縄にとってよかったのか、歴史のIFは困難だ。しかし、日米戦争によって、壊滅的な打撃を受けた沖縄の復興を、米軍にではなく、人類平和を目指す国連に仮託しようとした理想論を、ジャーナリズムを通して主張し続けた人物がいた。

いま、沖縄の主権など歯牙にもかけない強権的な政権を見れば、奇貨とすべきだった、とも考えることができる。

池宮城は日本に留学していたのだが、その体験からも日本嫌いになっていた。知人にこう語ったという。

「日本人は何とバランス感覚のない国民なのか。何ごとにつけ一丸になって、遮二無二、一方的に突き進む。あの戦争にしたってそうだったではないか、軍人が幅をきかし出すとその軍人が何もかもやってしまう。反対する者は治安維持法でひっくくってしまって物も言わせない。いったい日本人とは何なんだろう」

徹底した平和主義者だった。が、琉球新報の社長だったときに、経営悪化にたいして人員削減を強行し、沖縄タイムスとの経営統合を謀ったり、労組との対立をふかめていた。

著者は負の部分も描きだして、矛盾に満ちた人物を丸ごと捉えようとしている。個人的な関係が深くなると人物を客観的に描くのは難しい。が、森口さんはその難しさに挑戦しつつ、いま「第二の琉球処分」というべき、米国支配下、安倍対米従属政権の差別と分断支配の政策にたいして、批判の視点を明確に示している。
この記事の中でご紹介した本
紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人 池宮城秀意の反骨/ 彩流社
紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人 池宮城秀意の反骨
著 者:森口 豁
出版社: 彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
「紙ハブと呼ばれた男 沖縄言論人 池宮城秀意の反骨」出版社のホームページはこちら
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