人身売買と貧困の女性化 カンボジアにおける構造的暴力 書評|島﨑 裕子(明石書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年8月31日 / 新聞掲載日:2019年8月30日(第3304号)

人身売買と貧困の女性化 カンボジアにおける構造的暴力 書評
島﨑 裕子著『人身売買と貧困の女性化 カンボジアにおける構造的暴力』

人身売買と貧困の女性化 カンボジアにおける構造的暴力
著 者:島﨑 裕子
出版社:明石書店
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 早々に主題を述べてしまうが、著者は本書を通して読者に「平和」について問いかけている。ここで改めて考えてほしい。まず、「平和」とは何なのか? それを思い浮かべて欲しい。平和=戦争が無いことと定義しなかっただろうか。

「平和」を考える前提として、そもそも、本書の題名にも記されている「構造的暴力」とは何なのか? それは「社会の不平等や格差、差別や偏見、貧困」の中に生まれる、社会構造から発生する「暴力」である。タイトルから読み取られる通り本書は、カンボジアに於ける「貧困」や「人身売買」の中に見出される「構造的暴力」について書かれている。

著者はヨハン・ガルトゥング(John Galtung)の定義する「構造的暴力」が無い事を、「平和」として扱っている。ガルトゥングは、著書『構造的暴力と平和』で広く知られている社会学者で、「平和学の父」と言われている。「戦争が無い事」、ガルトゥングはこれを「直接的暴力」の不在とし、それだけでは「平和」とはならないとしている。勿論、著者もその立場を取る。

平和を目指すべく、国際社会から「構造的暴力」によって作り出される「貧困」を無くさねばならない。その「貧困」の原因について、著者はアマルティア・セン(Amartya Sen)の考えを用いて説明する。センは、著書『貧困と飢餓』や『不平等の再検討』で知られる経済学者で、著者の「貧困」の解決方法の考えに大きな影響を与えているように思われる。

ガルトゥングやセンといった、国際的なオーソリティーの思考に触れられるだけでも、本書には十分な価値があると言えるであろう。しかし、それだけではない。それ以上に価値のあると思えるのは、本書を通じ、現地の人間の意見を知ることが出来ることだ。著者は長期間のカンボジアでのフィールドワークで、「構造的暴力」を受けている被害者に対して聞き取り調査を行っている。例えば、父親が失業によりアルコール依存となり失踪してしまった家庭の次女、マネットさん。彼女は、外国の売春宿での出稼ぎの経緯や被害などを語っている。本書には、マネットさんの語りを含む計8つの聞き取り調査が掲載されている。カンボジアの貧困者に比べ、日本に住み人間らしい生活を送っている私たちの幸せさに気付かされる。現在、日本の外務省は、カンボジアを危険レベル1(危険を避け、十分な注意が必要なレベル)に設定している為、カンボジアには行きづらい又は行きたくないという人も、少なからずいるはずだ。もしカンボジアに観光目的で行く事があっても、何のコネクションも無く、知識の乏しい私たち一般人が、現地で聞き取り調査をするのは困難を極める。実際に自分で現地へ足を運び、聞き取り調査が出来ない私たちには、この著書を手に取る価値がある。

さらに著者は、既存の考えや事実を列挙しているだけではない。第5章、第6章で、島崎氏の「構造的暴力」からの脱却の方法が記される。その方法が、単なるNGOやその他非国家アクターによる外部支援ではない事に驚かされるであろう。勿論、支援が必要である事は所与の事実だが、その支援の仕方に注視すべき点がある。

著者を始めとするオーソリティーのある学者らの考えと現地の声を基に、あなたの「平和」に対する思考が直感的な物ではなく、確かなる物になる事を望む。
この記事の中でご紹介した本
人身売買と貧困の女性化 カンボジアにおける構造的暴力/明石書店
人身売買と貧困の女性化 カンボジアにおける構造的暴力
著 者:島﨑 裕子
出版社:明石書店
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