岡井隆『親和力』(1989) 本国有鉄道が遭ふあけぼのを『ローマ皇帝伝』カエサルの死に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年9月6日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

本国有鉄道が遭ふあけぼのを『ローマ皇帝伝』カエサルの死に
岡井隆『親和力』(1989)

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日本国有鉄道(通称・国鉄)が、1987年に分割民営化され、現在のJRとなったことを受けて詠まれた一首である。いわば国鉄を擬人化し、その最期を『ローマ皇帝伝』に綴られたユリウス・カエサルの死になぞらえた歌だといえる。現代短歌にメタファーと思想性を導入した岡井隆らしい歌だ。後世のサブカルチャーの擬人化ブームの先取り、なんていうと言い過ぎになってしまうが、言いたくもなる。

『ローマ皇帝伝』は、ローマ帝国五賢帝時代の歴史家スエトニウスの著書。ラテン文学者・國原吉之助の邦訳が岩波文庫から出ている。カエサルの最期といえば、腹心のブルータスに裏切られ「ブルータス、お前もか」と言い残して暗殺された逸話が有名であるが、これはシェイクスピアの史劇の脚色とみられている。『ローマ皇帝伝』での著述によれば、無言で暗殺された、もしくはブルータスに対して「お前もか、倅よ」と言ったと伝えられている。この「倅」は訳者の國原によれば「若造」くらいの意味で、実際にカエサルとブルータスが親子であった可能性はないという。

国鉄の終焉をカエサルの死にたとえたのは、内部からの裏切りで崩壊したという共通点を見てとったからだろう。しかし派手でドラマティックなシェイクスピア式の最期ではなく、地味な『ローマ皇帝伝』式の最期と重ねた。それは、この崩壊が後世に脚色されたドラマとして語られることになるだろうという予感でもあったのかもしれない。(やまだ・わたる=歌人)
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