監視カメラと閉鎖する共同体 敵対性と排除の社会学 書評|朝田 佳尚( 慶應義塾大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

監視カメラと閉鎖する共同体 敵対性と排除の社会学 書評
導入決定の裏にある意外な事実を発見
他者を排除することによって自らの空間を定義

監視カメラと閉鎖する共同体 敵対性と排除の社会学
著 者:朝田 佳尚
出版社: 慶應義塾大学出版会
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 監視カメラの防犯効果にかんしては明確な結論が出ているわけではない。しかし、それにも関わらず監視カメラは増え続け、いまでは私たちの日常風景の一部になっている。効果があやしいにも関わらず、なぜカメラは設置されるのか。そもそも誰が設置を決めているのか。そこにはどんな力学が働いているのだろうか。著者はカメラが設置された地域に密着して人々の声を拾い上げ、監視カメラ導入の経緯を探ろうとした。本書はその研究成果をまとめたものである。

著者は、監視カメラをめぐる問題を考える際に既存の監視社会研究が理論的枠組みを提供してきたとして一定の評価を与える。二〇世紀後半以降、脱福祉国家、国境を超えた人口移動、諸権利の拡大が進み、その結果として個々人のアイデンティティは不確実さを増していった。それらはまた人々に不安を抱かせる要因ともなる。著者によると、監視技術の登場は逸脱者や外国人など社会にとっての「異物」を特定し、排除することで、それとは異なる存在としての自己や共同体の姿を再確認することを可能にした。

共同体内の「異物」を監視し続けることで不安要因を取り除き、日常生活の安全・安心を確保する。一見それで説明できそうだが、先に述べたように、実際にはカメラの防犯効果は疑わしいことがわかっている。仮に不安要因の除去が自己目的化しているとしても、それだけでは人々の関心がなぜ監視カメラにばかり集中するのかという問いには答えられない。そう考えた著者は、監視カメラが設置された商店街や地域に赴いて導入の経緯を調べてみることにした。常識的には監視カメラ設置の背後に警察や行政などの介入を想定しがちだが、著者はそこで意外な事実を発見する。カメラの導入は住民主導で行われることが多いのだ。

しかも著者によると、監視カメラ導入を決めた共同体の住民の大半は、実際にはその効果を信じてはいない。しかし、導入をめざす少数者とその支持者がいて、そこに異物としての他者表象が組み合わさると、少数者があらかじめ持っていた状況の定義が現実のものとなってしまう。こうして構成された「現実」が共有されれば、防犯効果の如何に関わらず、監視カメラは共同体の正当性を担保するために機能し続ける。この指摘はじつに興味深く、かつ重要なものだ。
本書のユニークな点は、著者がそこに呪術的な機制を認めていることだ。著者によれば、そこには設置者の意図にそって監視カメラの設置理由を創出する作用と、監視カメラそれ自体の信憑性を高めるという二つの作用がある。これらが相互に支えあうことで、不安の拡散とその対抗策としての監視カメラという「現実」が構成される。ここでモデルとなったのはアフリカ中央部のザンデの人々に伝わる卜占の儀礼に関わる民族誌の事例で、著者はそれを踏まえて監視カメラを「現代の卜占」と位置づける。

ザンデの卜占の場合、占いの結果が質問者の意図に沿う場合は、結果をそのまま受け入れる。意図に沿わない場合であっても、他の問題を指摘し論点をずらすことで質問者の意図が事実化され、卜占の意義が疑われることはない。著者によると、監視カメラをめぐる状況もこれによく似ている。犯人が見つかれば監視カメラの存在価値を再確認することになり、なにも起きない場合はカメラが事件を未然に防いだと主張すれば良い……。

どちらに転んでも、監視カメラや共同体の正当性が揺らぐことはない。なぜなら、監視カメラは他者を排除することによって自らの空間を定義する共同体を構成し、ひるがえって共同体が監視カメラの意義を再生産するからだ。監視カメラの設置をめぐって進行しているのは、そんな自己撞着的なプロセスなのだ。出口など無いようにも思えてくるが、監視カメラの機制によって社会の質的な変容が起きているのであれば、そこには「反省性」が存在する契機もあるとして、著者は、状況打開への希望を捨ててはいない。
この記事の中でご紹介した本
監視カメラと閉鎖する共同体 敵対性と排除の社会学/ 慶應義塾大学出版会
監視カメラと閉鎖する共同体 敵対性と排除の社会学
著 者:朝田 佳尚
出版社: 慶應義塾大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「監視カメラと閉鎖する共同体 敵対性と排除の社会学」出版社のホームページはこちら
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