戦略で読み解く日本合戦史 書評|海上 知明( PHP研究所)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

戦略で読み解く日本合戦史 書評
示唆に富む好著
様々な史料を駆使し比較検討

戦略で読み解く日本合戦史
著 者:海上 知明
出版社: PHP研究所
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 本書は戦略という観点から日本中世の合戦を読み解こうとしたものである。歴史はいうまでもなく様々な角度から論ずることが可能である。この点、評者は実証史学の立場から見ているが、著者は戦略研究の地点から眺めている。それゆえ、著者と視座を異にする評者は適切な評価能力を欠いている。だが、評者も同じ日本史を学ぶ者である。ここは蛮勇を奮って挑んでみたい。

冒頭、著者は戦略に関するこれまでの歴史研究の問題点を挙げる。一つが「実証史学の限界」、もう一つが「結果論の罠」である。前者は一次史料にとどまる姿勢、後者は勝てばそれを賢策と見做してそのまま模倣する態度を指している。かくして著者は、様々な史料を駆使し各種合戦を比較検討していきながら、戦略の本質部分を読者に示していく。

その内容はまこと斬新というほかない。例えば、平治の乱で完勝した平清盛を孫子とクラウゼヴィッツを合わせた大戦略家とする一章。都落ちした平知盛を足利尊氏や楠木正成・クトウゾフと比較しても何ら遜色なき逸材とする二章。以下、十二章に至るまで古今東西を縦横無尽に疾走し武将や合戦・戦略を論じていく。その姿はあたかも千里馬のようで、著者の馬力にはただひたすら圧倒されるが、そうした中で読者は間接的・直接的アプローチ論(リデルハート)や内線・外線論(ジョミニ)といった諸理論を学んでいく。その上で最後に「実証史学の限界」と「結果論の罠」が再度批判されつつ締め括られていく。なお、個人的にはあとがきに見える方々が実に多彩(多士済済)で、著者のひととなりが窺えた点も興味深かった。

以上のように、本書はまこと示唆に富む好著であるが、他方、気になる点もないではなかった。例えば、著者は度々「実証史学の限界」を批判する。だが、それはどの研究のことを指しているのか、もう少し具体的に指摘していただけるとより分かりやすくなるのではないだろうか。また、実証史学に限界があることは確かにその通りなのだが、他方、実証史学にはいうまでもなく達成もあるわけであって、特に近年は戦争や軍事などについて論じた著作も散見され、個別具体的な合戦研究も一定の蓄積が存在している。それら実証史学の到達点がいまどこにあるのか、個々の合戦に即して先行研究を整理・総括していただけると著者の画期性もより明確化されるものと思われる。著者の捉えた実証史学の成果と課題、ここを明示していただけるとありがたい。

いずれにしても、歴史は多様な視点から語られるのが面白い。実証史学も他者も独自の視角と死角を持っている。それゆえ、「自らの分野の資料・史料に即した研鑽を積みつつ、他の学問分野に対し、常にひらかれた目を持ち、貪欲にその成果を吸収する努力を怠りなく続ける必要」(網野善彦『歴史と出会う』洋泉社、二〇〇〇年)があるのである。先達や隣人の声に耳を澄ませたい。
この記事の中でご紹介した本
戦略で読み解く日本合戦史/ PHP研究所
戦略で読み解く日本合戦史
著 者:海上 知明
出版社: PHP研究所
以下のオンライン書店でご購入できます
「戦略で読み解く日本合戦史」出版社のホームページはこちら
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