「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 書評|山下 泰平(柏書房 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3005号)

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本 書評
面白がる準備はOK?
奇想天外、支離滅裂!愛すべき「明治娯楽物語」

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本
著 者:山下 泰平
出版社:柏書房
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面白がる力があれば、無人島でも生きていける。私たちは本書から、「面白がり方」を学ぶべきである。明治時代の娯楽的な読み物を「明治娯楽物語」と名付けて軽妙な語り口で紹介していく本書には、名人芸的な面白がり方とその成果がぎっしり詰まっている。今ではすっかり見向きもされなくなっている明治娯楽物語の作品たちは、本書のタイトルが示す通り奇想天外、というより支離滅裂でいい加減だったりする。そうした普通ならば作品の疵となるところこそを、堪らなく面白く、愛おしく思わせてくれるのが本書の美点だ。

著者によれば、明治娯楽物語は、三つのジャンルに分類できる。第一に、ジュール・ヴェルヌなど海外小説の翻訳やその影響をうけた、冒険小説やSF仕立ての「最初期娯楽小説」。作家としては押川春浪、三宅青軒、江見水蔭らが活躍した。『東海道中膝栗毛』でおなじみの弥次さん喜多さんが大砲で発射されて月に行ったりなんかする具合で、これらは「物語の後半になると、作者が疲れてしまいグダグダの展開になることが多かった」。第二に、新聞の三面記事を長く詳しく面白くしたような「犯罪実録」。「人気が出るのは単純な作品で、荒く雑な犯罪者が奪った金で飯を食ったり風俗に行ったりするだけの物語が、最初期に書かれた比較的質の高い本格推理小説より好評を博してしまうといった現象が発生」したというから侮れない。第三に「講談速記本」。文字通り、「講談」(軍記や政談を説いて聞かせる芸能)を速記者が記録した書物だが、「徐々に講談を素っ飛ばし直接書かれるようになり、無茶な内容へと成長、明治三〇年代後半には水戸黄門の弟が崖の上から重さ一〇〇〇キロ程度の石を投げて寺を破壊するといった内容に変化していく。ネタ切れでヤケクソになった創作者たちは、覆面ヒーローの原型を作ってみたり、阿弥陀如来の力を身体に帯びたヤクザが邪宗切支丹の教祖を退治する物語を作り上げたり、果ては天竺徳兵衛が謎の自動車を発明し大蛇退治をしたりする作品すら存在する。力自慢のはずの豪傑が冴えた推理をすることもあれば、アイヌの英雄が武士となり日本の侍をサポートしてしまうことすらある」という。本書の核となるジャンルだ。ただし、以上の区分は暫定的なもので、互いに無許可で真似あったり、複数の特徴を兼ね備えたりする作品も存在した。

著者による作品内容の紹介が面白いのはもちろんだが、書き手たちの試行錯誤を知るのも楽しい。たとえば「廃刀令以後にふさわしいヒーローの武器は?」「科学全盛の時代に忍者はどうやって忍術をつかうのか?」など、新時代ならではの課題を勢いや屁理屈で乗り越えて行く「漱石になれなかった普通の作家たちの活動」のドラマを、本書は豊かな想像力で復元しようと試みる。

さらに本書では、明治娯楽物語と現代日本のサブカルチャーとの共振がしばしば示唆される(この辺りは、大橋崇行『ライトノベルから見た少女/少年小説史』[笠間書院]を併せて読むと、より見通しがよくなるだろう)。スタジオジブリの宮崎駿監督も講談速記本を読みまくったらしいし、忍者や剣客の物語も健在だ。明治娯楽物語のヒーローたちがひそかに現代に蘇ってきてはいないか? 本書の読者はいつでもそれに気づいて面白がる準備を怠らないだろう。
この記事の中でご紹介した本
「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本/柏書房
「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本
著 者:山下 泰平
出版社:柏書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本」出版社のホームページはこちら
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