被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証 書評|江成 常夫(小学館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証 書評
執念の記録
黙して語らない物、遺構との応答 核兵器がもたらした被害の実相をいかに伝えていくか

被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証
著 者:江成 常夫
出版社:小学館
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 今世紀に入ってからの広島市の発展はめざましい。わたしが暮した一九五〇年代には、人にも街にも目に見える生々しい被爆痕があったが、洪水のように車が流れる今の街から原爆の惨禍を想起するのは困難だ。体験者は減り続け、時間がかけがえのない記憶を奪っていく。人類初の核兵器がもたらした被害の実相をどうやって伝えていくのか。

数十年にわたって原爆に取り組み、ノンフィクション『記憶の光景・十人のヒロシマ』(一九九五年)と写真集『ヒロシマ万象』(二〇〇二年)を上梓している写真家江成常夫が出した答えがこの写真集だ。

黙して語らない物と遺構との応答である。広島平和記念資料館と長崎原爆資料館に一〇年以上通いつめ、おびただしい数の遺品と向き合った。街の片隅にひっそりと佇む遺構にもレンズを向け、その中から一三〇点余を収録した。執念の記録といえる。

被爆者が身に着けていた衣類や時計、頭骸骨が付着した鉄兜、溶けて異形の相を呈する陶器片やガラス瓶、ご飯とおかずが炭のようになった弁当箱などの遺品群。人の日常が想像を絶する閃光と爆風と火災に襲われた結果に戦慄する。持主は溶けたか、大やけどを負ったか、残酷な死を強いられている。

学生服が何点もあるのは、おおぜいの中学生や女学生が爆心近くの建物疎開作業に動員されていたからだ。十七歳の女性のブラウスは、父の浴衣を母が縫い直したもの。布製のかばんもゲートル片も母の手作りで、戦争末期の衣料事情を物語る。被爆者は日本人だけではない。米兵捕虜の認識票や訓練帽、中国人の国防服もある。

ほぼ全滅した広島の陸軍中国管区司令部跡や長崎の三菱兵器トンネル工場跡など遺構に刻み込まれた破壊痕も痛々しい。大浦天主堂の廃墟から掘り出された、眼窩が真っ黒で頬が焼け爛れたマリア像。首のない聖人像や破損した十字の墓石は、キリスト教の聖地もおかまいなしの無差別攻撃だった証拠である。

遺品には持主の被爆時の様子や収拾の過程、遺構には爆心からの距離や場所などの解説が付してある。英語も併記しているのは、人類共通のテーマなのだから外国人にも見てもらいたいという著者の意図による。

土門拳を敬慕する著者の手法は、技巧を排し、対象とまっすぐに向き合うこと。本作も、遺品に刻み込まれた苦しみや悲しみや怨念まですくいとるほど被写体に肉薄している。副題に、死者の「いのちの証」とするゆえんだ。この本を見る人の感想はさまざまだろうが、人びとの手から手へ渡されて、著者が望むように核廃絶の手がかりになることを心から願う。
この記事の中でご紹介した本
被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証/小学館
被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証
著 者:江成 常夫
出版社:小学館
以下のオンライン書店でご購入できます
「被爆 ヒロシマ・ナガサキ いのちの証」出版社のホームページはこちら
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