〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで 書評|大森 淳史(三元社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 文学
  5. 日本文学
  6. 〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだでの書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで 書評
〈ブリュッケ〉のみを対象とした研究書
日本のブリュッケ研究史において注目すべき一冊

〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで
著 者:大森 淳史
出版社:三元社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 大森淳史氏の『〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで』(三元社、二〇一九年三月出版)は、日本のブリュッケ研究史において注目すべきである。これまで、カンデンスキーなど〈青騎士〉の画家を含めたドイツ表現主義に関する卓越した研究書はあるものの、〈ブリュッケ〉のみを対象とする本書は貴重である。美術館展に関しても「ドイツ表現主義─ブリュッケ展」(目黒区美術館を初めとする一九九一―一九二二年の巡回展)が記憶に残るが数は決して多くない。

ドイツ本国ではブリュッケ美術館が一九六七年に開館し、ドイツ各都市でブリュッケ展は頻繁に開催されてきた。本書のなかでも紹介されているドレスデンとベルリン以外にも、フランクフルトのシュテーデル美術館では、二〇一〇年にキルヒナーの大回顧展が実施され、反響を呼び、現在(~二〇一九年十月十三日)も「キルヒナー、ヘッケル、シュミット=ロットルフ」展が開催されている。ドイツでは一九八〇年代に新表現主義(新野獣派)の活動が盛んになったが、その原動力も〈ブリュッケ〉の伝統から生まれたものであり、当時の標語であった「時代精神」(Zeitgeist)を形成した。したがって日本での〈ブリュッケ〉の紹介が少ないのはむしろ意外であり、本書が日本での関心を深めることを期待する所以である。

本書の第一部では、ドレスデンでの結成からの歴史が詳述されている。メンバーの生い立ち、メンバー同士の親交や離散などに加えて、当時の芸術団体、展覧会、会員制度、ベルリン分離派や新分離派との関係も含め、文化政治学的なアプローチである。膨大な資料と豊富な情報のもとに構成されているため、芸術家集団としての〈ブリュッケ〉の知識が深まる。また、第2部と第3部に整理された同時代の文化・社会思想が〈ブリュッケ〉の台頭と没落を知るうえで効果的である。〈ブリュッケ〉の時代は二つの世界大戦にはさまれ、ナショナリズムと民族主義が価値観を強く左右し、美術の領域でも皇帝派と反皇帝派の抗争が激化した。ベルリン国立美術館館長ユスティのドイツ表現主義擁護も時代の流れに阻まれることになる。ジンメルやエリアスが問題視する個人と社会の関係が時代の徴候として浮上したのである。その一方で、帝国主義がもたらした植民地政策によって西洋に渡ったアフリカやオセアニアの芸術が大きな刺激を与えたことも事実であり、またヌーディズム運動やワンダーフォーゲルの活動などによって、自然と身体のテーマが重視されるようになった状況も見過ごすことはできない。「ニーチェ崇拝」は国境を超えフランスの芸術家にも見られるように、ニーチェは二十世紀前半の芸術家がとくに心酔する思想家であった。従来の〈ブリュッケ〉研究で重視されたモダニティVSプリミティヴィズム、文化VS自然などの弁証法的分析の枠を超えた研究である。

一方で、〈ブリュッケ〉の作品や芸術観の独自性、および芸術的発展のプロセスに関する考察は少なく、また、研究対象は木版画のみであるため、作品の全体像を把握することが難しい。キルヒナーの神経質的過敏な線描や大胆な色彩構成による大都市と人間の表現、あるいはオットー・ミュラーの裸身と自然の安らぎのある風景など、油彩画でしか観察することのできない〈ブリュッケ〉本来の魅力があるように思われるのだが。

本研究の方法論に関しては、マイケ・ホフマン著の『芸術家グループ〈ブリュッケ〉の生活と創作、1905年から1913年』(「様式的分析には重点が置かれず、文化史的・社会学的観点からの分析が表に出ている」)に教えられたと記されているが、実際、本書はホフマン色が強く見受けられる。オーラフ・ペーターズはホフマンの著書の書評で、「あまりにも長い歴史的迂回や誘導は、著者の意図に反して、確実な全体像を示しているとはいえず、ラインハルトやエーナーによる芸術家集団の歴史研究(筆者註:〈ブリュッケ〉の古典的研究)を欠かすことができない。しかしながらホフマンの著書には賞賛に値する編纂が見られ、かなり拡張されたアプローチは成功している。ドイツにおける表現主義的アヴァンギャルドとの取り組みの継続に、確たる研究基盤を提供できるであろう」(Kunstform7,2006, Nr.11)と新しい方法論に期待を寄せている。『〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで』は、いずれにせよ、この開拓された研究方法を反映させた、新しい〈ブリュッケ研究〉であることには間違いないであろう。
この記事の中でご紹介した本
〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで/三元社
〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで
著 者:大森 淳史
出版社:三元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「〈ブリュッケ〉とその時代 個人主義と共同体のあいだで」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
文学 > 日本文学関連記事
日本文学の関連記事をもっと見る >