太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家 書評|目黒区美術館(青幻舎 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家 書評
光の効果に魅せられあった画家と建築家

太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家
著 者:目黒区美術館、京都文化博物館
監修者:松隈 章
出版社:青幻舎
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 今年の春から秋にかけて京都文化博物館と目黒区美術館(東京)を巡回した展覧会「太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家」の公式図録として刊行された書籍だ。画家と建築家、それぞれの業績を紹介する展覧会は多いが、両者を対等に取り上げて、その交流に焦点を当てた企画は珍しい。

太田喜二郎は1883年生まれの洋画家で、東京美術学校を卒業後、ヨーロッパに留学。帰国して印象派の流れをくむ点描の技法で作品を発表し、画壇で高い評価を受けた。その画面には、きらびやかな明るさが満ちている。

一方の藤井厚二は1888年生まれの建築家で、東京帝国大学の建築学科を卒業後、竹中工務店へ。今では優秀な学生がゼネコン設計部に就職するのも当たり前だが、藤井は初めて向かい入れられた帝大卒の設計者だったという。竹中では大阪朝日新聞社などの設計を担当。6年勤めたのちに辞め、京都帝国大学の建築学科で教鞭をとるようになる。並行して住宅の設計を行い、特に京都・大山崎の自邸建設にのめり込んで、意欲的な実験住宅を次々と敷地内につくっていった。その中でも1928年完成の「聴竹居」と名付けられた建物は有名で、昭和の建築家の自邸として、初めて国の重要文化財に指定されている。

本書の内容は、第1章が太田、第3章が藤井に当てられ、その間に挟まれた第2章で、ふたりの交流について掘り下げている。展覧会の企画意図が、そのまま書籍の形にも現れた明快な構成だ。

ふたりは京都帝国大学でともに講師を勤めたことから知り合い、太田の自邸を藤井が設計することになる。それだけでなく、茶会に同席したり、知人の画家の作品集を共同で編集したり、様々な形で交流を持った。そして太田邸の数度に及ぶ増築工事も、藤井に設計が任されている。

本書にはその太田喜二郎邸(1924〜31年)のスケッチや図面、そして現存する建物の写真が多く掲載されている。なかでも、昨日まで使われていたかのようにイーゼルや書類が残されたアトリエの内観写真には目を見張らされる。4メートルを超える天井と、高窓から入り込む光の効果によって、独特の室内空間ができ上がっているのだ。

藤井はアール・デコと和風を統合したようなデザインを巧みにこなしただけでなく、「聴竹居」で冷気を建物内に採り入れるため地下にクールチューブを設けるなど、環境工学の先駆者でもあった。

太田喜二郎邸のアトリエも、そうした藤井による環境工学の成果が存分に活かされた設計だ。画家が制作に求める環境を、自然の光や熱を最大限に生かして実現する。それが藤井が目指したことであった。そして実現した空間の空気や光の質は、太田の絵画にも大きな影響を与えたことだろう。

逆に藤井も、太田の絵画からインスピレーションを受けたのかもしれない。本書の解説で京都文化博物館学芸員の植田彩芳子は、光の効果への関心がふたりには共通すると指摘する。

また目黒美術館学芸委員の山田真規子も、「太陽光線は平等にして貴賤貧富の差別はありませんから、気持よき軟かき光線を利用することに遠慮はいりません」という藤井の文章を引き、人が光を浴びることの幸福感や恍惚感を、ふたりが同じように大切にとらえていたことを明らかにする。

画家をクライアントにもった建築家といえば、小林古径や梅原龍三郎の住宅を設計した吉田五十八をはじめとして、数多くの名前が思い浮かぶ。しかし太田と藤井は、単に依頼された設計を引き受けただけではなく、それを超えた相互作用のつながりをもっていた。画家と建築家にこのような「共同」のあり方もあることを、本書からは知ることができた。
この記事の中でご紹介した本
太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家/青幻舎
太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家
著 者:目黒区美術館、京都文化博物館
監修者:松隈 章
出版社:青幻舎
以下のオンライン書店でご購入できます
「太田喜二郎と藤井厚二 日本の光を追い求めた画家と建築家」出版社のホームページはこちら
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