発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代 書評|高野 光平(光文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. ビジネス・経済
  5. メディア・マスコミ
  6. 発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年9月7日 / 新聞掲載日:2019年9月6日(第3305号)

発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代 書評
テレビ草創期のCMを多角的に解明する
考古学的アプローチから見えてくる初期CMの全体像

発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代
著 者:高野 光平
出版社:光文社
このエントリーをはてなブックマークに追加
 昭和33年の東京下町を描いた大ヒット映画『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)には、ようやく家にやってきたテレビ受像機がその日のうちに壊れ、電器店の主人が車の荷台に乗せて回収していくという場面があった。力道山のプロレスを観るために集まっていた近隣住民は、皆がっかりして家路につく。

本書によれば、同年には「テレビ健康保険」という修理サービスのCMが放送されていて、電話一本でバイクに乗って駆けつけてくれたという。掛金を払っていれば修理代は無料で、修理中は代わりの受像機を貸してくれる。届いた当日に故障したのではどうしようもないが、『ALWAYS』を思い返すと、この保険に勝算があったことは想像に難くない。

『ALWAYS』のような懐古映画は、昭和30年代を理解するための重要な導き糸になる反面、「古きよき懐かしの昭和」というステレオタイプ化を促した。著者はそのメカニズムを、昨年刊行の『昭和ノスタルジー解体』(晶文社)で詳細に分析している。

それに対して本書は、「紋切り型のノスタルジー」では捉えきれない昭和30年代の消費生活を、著者自身が構築に尽力したテレビCMデータベースを駆使して、多角的に解明しようという試みである。従来の広告論や広告史から抜け落ちてきた「最古」の「無名」なCMの数々に焦点をあて、宣伝されている商品やサービスの詳細、さらにその社会的背景まで、広告主の社史、発売当時の業界誌や週刊誌などを手がかりに、ひとつひとつ丁寧に検証していく。社史に掲載されていないものもあって、会社に問い合わせても記録が残っていないという回答が多かったという。当時の関係者に聞き取りをおこなっても、その記憶が正しいかどうか判断ができない。こんな具合に、著者の思考や調査の過程が(その行き詰まりも含めて)記されていて、初期のCMを研究することの楽しさと難しさが伝わるように工夫されている。

著者が強調するように、たった半世紀前のものごとを明らかにするにも、「歴史学や考古学のアプローチ」を要する。著者の見立てでは、「戦後昭和のモノや情報がものすごい量で、ものすごいスピードで入れ替わったから[…]近い過去ではあるが、掘り下げる土壌は広大で深い」(258頁)。記憶や文書だけを頼りにした歴史記述ではなく、初期CMのフィルムというモノを出発点としていることが、考古学たる所以である。それにはデータベースを整理、保存、管理する多大な労苦がともなっている。

民間放送の産業構造と相まって、CMをめぐる広告ビジネスの商慣行が確立するのが60年代初頭であり、それ以降の常識では考えられない規格外の表現が、初期のCMには溢れている。それぞれのCMを読み解くことで、テクノロジーを素朴に信じることができた当時の価値観、60年間の歳月が大きく変えた私たちの感性――本書が取り上げている事例のなかでは、食品や嗜好品に対する感覚の隔たりがとくに興味深い――が浮き彫りになると、初期CMの全体像に対する理解もおのずと深まる。見事な帰納法的アプローチだ。
この記事の中でご紹介した本
発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代/光文社
発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代
著 者:高野 光平
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
「発掘!歴史に埋もれたテレビCM 見たことのない昭和30年代」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
高野 光平 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
ビジネス・経済 > メディア・マスコミ関連記事
メディア・マスコミの関連記事をもっと見る >