小谷野敦×倉本さおり対談 〈芥川賞について話をしよう〉 第十六弾|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年9月13日 / 新聞掲載日:2019年9月13日(第3306号)

小谷野敦×倉本さおり対談
〈芥川賞について話をしよう〉 第十六弾

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第4回
美文表現と――『五つ数えれば三日月が』

倉本  
 うーん、では李琴峰さんの話をしましょう。デビュー作『独り舞』と比べると、『五つ数えれば三日月が』はぐっとレベルアップしていますよね。今作は台湾から日本の大学院に進学したのち、そのまま日本の銀行に就職した「私」と、そんな「私」が友情以上の気持ちを抱く相手であり、同じ大学院を出たのち台湾へ渡って台湾人男性と結婚した日本人女性・実桜が五年ぶりの再会を果たすさまが描かれる。

『独り舞』もセクシャリティとナショナリティがモチーフになっていますが、物語の運びとあまり馴染んでいなかった。声の張り上げ方が均等に大きすぎたというか、主張せざるをえない形で要素を盛り込みすぎているせいで消化不良を起こしていた。今回は、より問題が複層化しているのに、そこから生じる声がちゃんと物語に馴染んでいる。アイデンティティーや帰属意識がことごとく無化されていく過程が、物語の中でしっかり昇華されていて、とても上手い小説だと思いました。李さんは、みんなが単一の視界で見ている、ごく当たり前だと思っているものは、実はそうではないということをとても丁寧に教えてくれる作家です。
小谷野  
 今回の作品は、レズビアンとか台湾とかをあまり前面に出さず、売り物にしていないところがいいと思いましたね。けれど料理に一切興味がないので、その部分は飛ばしながら読みました。初読のときは良い作品だと思ったんですが、二度目に読むと美文表現がかなり気になりました。過度に美しく書かれすぎている感じがするんですよ。最初ほど評価はできなかった。
倉本  
 えっ、あのスープで煮込むためのパンをちみちみ千切りながら会話する場面、最高じゃないですか(笑)。私が気になったのは恋文として挿入される漢詩の部分です。漢詩自体はあったほうが良いと思うし物語の中での必然性もきちんと感じられるんだけれど、書き下し文と日本語訳まで併記されている点に個人的には疑問が残ってしまい。特に日本語訳があると、読者がその通りに読まなければいけないじゃないですか。でもそうすると詩の余韻が半減しちゃうかなと。
小谷野  
 そこは特に何も思わなかったな。日本語訳がないと読めませんしね。
倉本  
 私はこの漢詩を、台湾、中国、日本のあいだで、少しずつ重なり合いながらも、完全には理解できないものの象徴としてあるように感じたんです。だとすれば漢詩のみか書き下し文までにしておいたほうが、よりテーマと響き合う作品になったんじゃないかなと。 
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この記事の中でご紹介した本
むらさきのスカートの女/朝日新聞出版
むらさきのスカートの女
著 者:今村 夏子
出版社:朝日新聞出版
「むらさきのスカートの女」は以下からご購入できます
百の夜は跳ねて/新潮社
百の夜は跳ねて
著 者:古市 憲寿
出版社:新潮社
「百の夜は跳ねて」は以下からご購入できます
カム・ギャザー・ラウンド・ピープル/集英社
カム・ギャザー・ラウンド・ピープル
著 者:高山 羽根子
出版社:集英社
「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」は以下からご購入できます
五つ数えれば三日月が/文藝春秋
五つ数えれば三日月が
著 者:李 琴峰
出版社:文藝春秋
「五つ数えれば三日月が」は以下からご購入できます
ラッコの家/文藝春秋
ラッコの家
著 者:古川 真人
出版社:文藝春秋
「ラッコの家」は以下からご購入できます
「ラッコの家」出版社のホームページはこちら
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